ほんのりと幸せな
ぽてぽて。
ぽてぽてぽて。
パタタタタ。
ぽて。
先程から奇妙な擬音を出しながら、動き回っている鳥が居た。
愛嬌のある、面白い顔をしたその鳥の名前はヒバード。
ハルが名付けた、雲雀の鳥である。
元々の飼い主は別の人間だったらしいが、今では完璧に雲雀だけの飼い鳥となっていた。
屋上を歩き回り、飛び、仰向けに寝そべっている雲雀の上に降り立つ動作を繰り返し、再び空へと舞い
上がったその姿を、ハルはぼんやりと眺める。
「ヒバード、良いなぁ…」
空を飛び回るヒバードを眺め、ポツリと呟く。
「何が」
目を閉じたままの雲雀が、それに反応して口を開いた。
木の葉の音ですら目を覚ます彼は、ハルの声で起きてしまった様だ。
ヒバードの羽音も、原因のひとつかもしれない。
「だって羨ましいじゃないですか。ヒバリさんとずっと一緒にいられるなんて…」
再び舞い降りたヒバードが、雲雀の胸の上へと着地する。
そのままハルの方を見て、不思議そうにクイと首を傾げた。
まるで此方の言葉を理解しているみたいだ。
「ね、ヒバード。ヒバリさんのお部屋とか、自由に入ったり出来るんですよねー?」
小さくて可愛らしい、そのふわふわの頭を人差し指で撫で、ヒバードに話しかける。
その気配に目を開けた雲雀は、軽く溜息を吐いた。
「そんなに僕の部屋に興味があるの?」
「それも大有りですけど…。ヒバリさんとずっと一緒にいられるのが、良いかなぁって」
それに反応したのか、ヒバードが小さく鳴き声を上げてハルの手の甲に飛び移った。
面白い顔と同じく、面白い鳴き声を小さく上げ、ヒバードはそのままハルの肩へと歩き上って行く。
「そんなにいたいなら、一緒に住むかい?」
ヒバードはハルの顔近くに留まり、頭を摺り寄せた。
その柔らかい感触につい顔を緩めたハルは、雲雀の言葉が上手く捉えられなかった。
もしかしたら仰天の余り、脳が伝達処理を鈍らせてしまったのかもしれない。
「…はひ?」
「二度は言わない…」
聞き返されたのが不満だったのか、雲雀はムッとした表情でヒバードをそっと持ち上げた。
そのまま学ランを掛けた肩へと移し、ふわ毛に軽いキスを落とす。
自分の頬に触れた箇所だと気付き、ハルの顔は一気に真っ赤になった。
「だだだって、今の!…本気、ですか?」
頬を赤くしたまま、真剣な顔で雲雀に詰め寄る。
「本気だったら、どうするんだい?」
意地の悪い笑みを浮かべ、雲雀はハルを見つめ返す。
二人に可愛がられたヒバードはご機嫌で、雲雀の肩で奇妙な歌を囀っている。
雲雀と一緒に暮らす。
それは簡易的ではあるが、プロポーズの一種ではないだろうか。
一生に一度あるかないかの、雲雀からの愛の告白に、ハルはのた打ち回りたくなった。
「ヒバリさんー!」
勢い良く雲雀に抱きついたハルの行動こそが、何よりもの返事だった。
途端にグラついた身体を離れ、ヒバードは再び宙へと浮かび上がる。
幸せなカップルをどう思っているのか、彼は相変わらず奇妙な顔で鳴いていた。