捕捉と決定
信じらんない。
何だってこのオレにこんな泣きついてくるワケ?
しかもオレとは違う男の事でさ。
あぁ、苛々する。
王子を何だと思ってんの。
「はひ〜っ、もう駄目です!今度こそ完っ璧に嫌われちゃいましたぁぁ」
目の前でさっきからわーわー泣いてるのは、三浦ハルという女。
確かもう高校生になったとか言ってた気がするけど…の割にはガキくせー。
何だって人前でこんなに泣けるのか、オレには解らない。
オレは泣いた事なんて、数える程しかないよ?
それだって赤ん坊の頃までの話だし。
だってオレ王子だもん。
王族が、んなピーピー泣いてちゃヤバイっしょ。
「やっぱりあの時、あんな事言わなきゃ良かったんでしょうか…」
しょぼんと肩を落とすハルに、更に苛々は募っていく。
「あのさー」
「はひ…」
オレを見上げるハル。
その目には涙が溢れている。
溢れ出した涙は頬を伝って次々と床へ染み込んで行く。
その光景が綺麗だと、自然と思えた。
でもさ、この涙はオレの為に流されたものじゃないんだよね。
あームカツク。
腹いせに顔を近付け、今もまさに零れ落ちようとしていた涙を舌でベロリと舐め取ってやる。
「……!?」
ハルは言葉も出ないぐらい驚いたみたいだ。
当然。
わざとやったんだし。
「な、なななっ」
「ん」
「ベルさん、何するんですかー!」
「うしし。泣き止んだ?」
「泣きっ……やみましたけど!」
彼女の目から新たな涙が盛り上がって来る事はなく、今ではその視線はオレだけに向けられている。
王子が此処までしてやってんだから、それが当然なんだけどさ。
「ベルさんのバカー」
ハルは顔を真っ赤にして、クルリと背を向けてしまった。
あー、ちょっかい出してー。
つか、別に出しても良いんじゃね?
ハルが誰を好きだろうと知ったこっちゃないし、オレだけのモノにする自信あるし。
毎回こうして他の男の話を聞かされる事もなくなるしね。
何で今まで我慢してたんだか。
王子に我慢させるなんて、良い度胸してるよホント。
「ハルー」
向けられた背中を胸に抱き込み、背後の長椅子へ勢い良く座る。
一気に二人分の重みを受けて椅子が小さく悲鳴を上げるけど、それは無視して暴れ様とするハルを押さえ込む。
「離して下さいぃぃ」
「やだ」
更に力を込めてハルを逃がさない様にする。
「ベールーさーんー!」
「王子の貴重な時間を無駄にしたバツ。諦めなよ」
「無駄って、ハルには大事な事なんですよー!」
「ほんっと、良い度胸してるよね」
目の前に晒された無防備なうなじに唇を寄せる。
「ひゃっ」
ツツと舌を這わせると、ハルは漸く大人しくなった。
このまま頂いちゃっても良いんだけど。
「どうすっかなー」
うしし、と一人含み笑いで考える。
耳まで真っ赤にしたハルは、もう言葉すら出てこないらしい。
先程から「あ」だの「う」だのな呻き声に近い音ばっか出してる。
まさかオレがこんな事するなんて思ってなかったみたいだ。
甘いよ。
男と二人きりになるのがどんなに危険な事か解ってないなんてさ。
さぁて、この獲物をどうしようか。