茨の道を乗り越えて






シチュエーションとしては、応接間よりも床の間の方がそれらしいですよね。
彼と決して視線を合わせようとしないお父さんは、お茶とか啜っていて。
彼の方はと言えば、スーツとネクタイをキッチリと着こなして、でもどこか落着きが無くて……。

(いくらお気に入りでも、決してボーダーのカットソーなどにネクタイを結んではいけません)

座布団の上に正座してしたのに、徐にそれを避けると、畳の上で土下座の体制になって。

「お父さん!」

っていきなり叫んだりして。
で、お父さんはもちろん狼狽してお茶とかこぼして。

「お父さん!お嬢さんを僕に下さい!!」

(うーんベルさんだったら、一人称は『オレ』かも?いくらなんでも『王子』だったら×です!)

って、畳に額を擦りつけるようにしてお願いするんです。
で、ハルはと言うと、彼の肩をそっと抱いて。

「お父さん、お願いです」

って、涙目で訴えるんです。はひぃーロマンチックです。
女の子だったら、誰だって夢見るシチュエーションです!ドリームです。ファンタジーです。

って事を期待していた訳じゃありません。
ハルだって、一応物事というものは分かっているつもりです。
まして、あの我儘王子のベルさんが、こんな夢物語のような事をするとは思えませんし。
それに、ハルは中学生ですから、まだまだ先のことだって分かっています。
でも、でも、憧れるじゃありませんか。
大好きな人が、自分の為に必死に懇願して、愛の成就を周りの人達に認めて貰って祝福されて、幸せな家庭を築くなんて。

なのに、どうして、ハルがこんな愛の試練を受けなければならないんですか?
ロミオだって、愛するジュリエットへの恋慕を抑えきれずに、危険を冒して彼女の許に求愛に行ったのに。
本来ならジュリエット役はハルの方なのに、どうして……ハルばっかり。

ここは、ハルにはお馴染みのヴァリアーのアジト。
目指す王子様のお部屋は、豪奢なお城の奥の奥。
複雑な回廊の奥にあったって、普段だったら目を瞑っても辿り着けるほど、通い慣れた場所であった。
でも、今は入り口からほど遠くない場所で、古典的な落とし穴に嵌って身動きできない状態。
考えたら、どんどん悲しくなってきてしまいました。

「はひっ!はひぃ。ハルは、ハルはベルさんに愛されてはいないんですかー」

「まーた泣いてんの?成長ねーなー」

我が身の不幸を嘆き、ついつい泣き言を言ってしまえば、頭の上から聞こえた呑気そうな声に思わず顔を上げると、そこにはハルの未来の旦那さま(あくまで予定)の姿が。

「ベルさん!ハルが毎回毎回こんなに苦労しているのに、高みの見物ですか?!」

「オレ別に高いトコいる訳じゃねーし。ハルが勝手にそんなトコに沈んでんだろ。ってか、毎回毎回こっちこそ信じられねーって!」

「はひぃ。酷いです!デビルです、ゴプリンです、グリーンブラッドです!!」

「ハルの言う事って、いつも二言くらいしか理解できねって」

「全て今のベルさんを如実に表している単語ですー!!それより早く助けて下さい」

「ああ?オレ、ハルの手助けできねーし。…ってハルが一番分かってんだろ」

そう。試練を与えられているのはハルのみで、肝心の王子様は、お城の奥で優雅に惰眠をむさぼっている。
これではハルの方が王子様です。
茨の道を乗り越えて、眠り姫ならぬ怠惰な王子様の下へ辿り着かなければ、ハッピーエンドを迎えられないのです。




ベルさんと知り合って、しばらくしてから分かった事ですが、ツナさん達とベルさんはすでにお知り合いだったみたいです。
ある日ハルがツナさんに、実はハル真剣におつきあいしている方がいるんです。そう報告しました。
ずっと憧れ続けていたツナさんは、どうやらハルの運命の人では無かったみたいです。
どこか気まずさもあったのですが、でもツナさんにはどうしても報告したくて、一大決心をしてそう切り出すと。
案の定ツナさんは、一瞬キョトンとした顔をされたのですが、すぐににっこり笑って、そーか良かったなハルって言って下さったんです。

思えば、あの瞬間がハルにとって至福の時でした。…その後の不幸を考えたら。

ハルはベルさんの姿を思い浮かべて、うっとりしながらツナさんにハルの王子様がどんなに素敵な人であるかをお話ししていたんです。そうしたらいきなり。

「お前!何、言ってんだよハル!」

って、すごい形相で怒り出してしまって……。

「はひっ。ツ、ツナさん、何を怒って」

「お前、アホにしても程があるだろうが!」

「ごっ、獄寺さんには意見を聞いてません」

「いやーハル。やっぱそれは不味いだろう」

「山本さんまで、そんな事言うなんて……」

口調はそれ程では無いけれど、皆さん雰囲気がすごーく怖いです。本気で怒っています。

「デ、ンジャ、ラス、ですー」

恐る恐る後ずさりながら、呟くように一言漏らすと、ツナさん達は更に怖い形相で。

「危険なのは、今、お前が説明してる相手の方だろ!」

「見た目だけでも十分すぎる位怪しいってのに、ナイフちらつかせて歩いてるや奴が危険な事くらい分からねーのかアホ女!」

「んー、ハルなー、悪い事言わねえから、今回だけはツナの言うとおりにしろって」

そんな、皆さん酷いです。ベルさんは雰囲気は怪しいですし、すぐにデンジャラスな事しようとしますし、短気で人使いは荒いけど、ごくごくたまーにですが、ハルには優しくして下さるんです。
ツナさんなら分かって下さいますよね?そう訴えると。

「いや、それ、ぜんぜん分かんねーし。」

ツナさんが、あの優しいツナさんが祝福してくれないなんて。
ハルは悲しいですー。
その場で泣き崩れても、ツナさんは絶対にダメだ!と、態度を崩しては下さいませんでした。

ハルはその足でベルさんの下に向かうと、一部始終を説明して、ツナさん達の誤解を解いて欲しいとベルさんに泣きつきました。
でもベルさんはベルさんで、祝福とかどーでも良いじゃんとか言ってやっぱり取り合ってくれませんでした。

でも、ハルはこんな事ではめげてはいられません。
乙女の夢見るシチュエーションの為!ロマンチックな未来を勝ち取るために努力!精進です!

そして、ようやくハルの必死の願いが通じたのでしょうか?
ツナさんが条件付で、ベルさんとの交際を認めて下さいました。
その条件というのが、なんでもヴァリアー方式の試練を受けて、勝利を勝ち取る事だそうです。
そしてヴァリアーの一員であるベルさんの協力は一切受けてはいけないそうです。
厳しいけれど、独りきりでの試練は寂しいけれど、ハルは頑張ります!



ハルの決心を余所に、どんよりとした雰囲気の中、諦めの境地で会話を交わすのは、ツナと獄寺と山本。

「なーツナ、ハルとベルフェゴールの事認めたって本当か?」

「う、うん。認めたって言うか、条件付けただけだけど」

「あのアホ、ストーカー紛いに十代目につきまとって、酷いだの、あんまりだの何だのと叫び続けやがったんだ」

「うん。他にもヒューマンな心を取り戻して下さいとか色々、オレ近所の人には変な目で見られるし……もう、仕方なく」

「ハルも一途だからなー」

「でも、可哀相だけど認めてやるわけには……」

「で、条件って何だ?」

「うん。リボーンが掛け合ってくれて、ヴァリアー側でハルに試練を与えるんだって。まずハルにはクリアできないらしいから、それで諦めてもらうしか…」

「それって、危なくねえの?」

「危ない目には絶対に合わせないって事で、一応」

「あのアホは、少しくらい痛い目見た方がいいんすよ十代目」

「いやいや獄寺君それは…まさかリボーンだってみすみすハルを危険な目に合わせるとは思えないけど」

などなど、ヴァリアー側に丸投げ状態でバトンタッチしてしまったが、いまいち不安をぬぐい去れない綱吉達であった。
とにかくハルを危険な目に遭わせたくない気持ちは皆同じであった。

それにしても、ハルはともかく、ベルフェゴールは本当にハルを好いているんだろうか?
綱吉としては、そちらの方も十分に心配であった。
ハルが傷ついて泣くことにならなきゃいいけど、いやいや、ここで傷ついたとしても、あの切り裂き王子はダメだろう。
綱吉は大きく頭を振った。
これが一番いい方法なんだ、ハルの為にも、た、ぶん、いや絶っ、対に、良いんだ、よなぁ?
嬉しそうにベルフェゴールの話をするハルの姿を思い浮かべて、綱吉の心は少し痛んだ。



「はひっ?たったそれだけで良いんですか?」

「ああ、一応な」

スクアーロによって告げられた、ヴァリアーの試練。
ごくごく簡単なトラップが仕掛けられた廊下を通ってベルフェゴールの部屋までたどり着くこと。
もちろんベルフェゴールの力を借りてはいけない。
罠にかかってしまったら、その日のチャレンジは終了。
ただし、再兆戦は可能なので、何度でもやり直せる。
罠自体は、ハルに攻撃を仕掛けるものではなく、ハル自身が罠に掛からない限り無害である。

あまりに簡単すぎる試練の内容を聞いて、ハルは安堵と同時に、ツナに感謝した。
あれだけ反対した手前、簡単に態度を変えられなかっただけなんですね。
きっと獄寺さんあたりが煩かったのでしょう。
やっぱりツナさんは優しい方です。

などなど、試練とは名ばかりの簡単な条件を前に。
数々の試練を乗り越えて、愛する人と幸せをつかむ…ああ、なんてロマンチックなんでしょうと夢見心地なハルは幸福な未来の妄想に浸っていました。

思えば、あの瞬間はハルにとって、二度目の至福の時でした。…今現在の、悲惨な状況を振り返ってみれば。




「おい。ハル、ハール」

「はひっ」

幸不幸の入り交じった、かの日を思っていたハルは、ベルフェゴールの呼びかけによって、意識を現実に引き戻された。

「ハルは不幸ですーとか、悲しいですーとか、ぶつぶつ言ってる割には、その残骸は何だよ!」

ベルフェゴールを見上げていたハルは、自分に周りに散らばっている残骸……を見やり、バツが悪そうに俯いてしまった。
そろそろと紙くずを拾い集めると、木目調の小さな丸い箱の中に納めて蓋をする。

「さすがの王子も呆れてモノ言えねえって」

「こっ、これには海よりも深い訳がありまして」

「どんな訳だよ」

「あの…ハル以前家族旅行で北海道に行きまして、帰りの空港で、それはもうなかなか手に入らない話題の生キャラメルを買おうとですね……」

つまり、長い長い行列に並んで、その品を手に入れようとしたハルは、最後尾のプラカードを持ったお兄さんに、この場所だともしかしたら買えないかも?
と、警告されたものの、簡単には諦めきれずに、買えなくても構いません!と、何時間も並んで待ったのだが。

「で、結局買えなかったと」

「はひ」

「聞いてねーよ、んな事」

言うな否や、ベルフェゴールお得意のナイフが飛んできた。もちろんハルの体を掠めようとも、傷を付けるなんて事は絶対にしない。
しかし、ハルにとって危険極まりない事には変わりがない。

「何言ってるんですか?聞いてきたのはベルさんですよ!って、危ないですー」

「しししっ、平気、刺さんねーって、オレ王子だし」

「と、とにかく、素通りするなんて、ハルには出来なかったんです。インポッシブルです」

「はあっ。頭痛てぇ」

落とし穴の縁からハルを見下ろしていたベルフェゴールは、ため息をついてその場に座り込んでしまった。

ヴァリアーの試練。
それはとても過酷(ハルにとってのみ)で、忍耐を必要(あまり必要とは思えない)とし、抗い難い誘惑(やっぱりハルにとってのみ)に打ち勝たなければならないのであった。
目を瞑ってもスタスタと歩いていけるはずのベルフェゴールの部屋までの道のり。
もちろん本当に目を瞑って歩くわけがないから、それらの試練は当然目に入ってくるし、甘い匂いまで伴って来たりもする。

初日はお約束の、ラ・ナミモリーヌのモンブラン。
お次は、バニラエッセンスの香りがが乙女心を擽る、シャトレーゼの苺いっぱいのショートケーキ。
濃厚なのに、後味さっぱりのチーズケーキとチーズスフレのダブルでのお出迎え。
外はカリカリ、中はフワフワのバウムクーヘン。
季節限定の桜のモンブランまでが、おいでおいでと誘いをかけてくる。

暗殺部隊のアジトにあるまじき、甘いスイーツがふんだんの廊下。
誰がどう考えたって、怪しさ大爆発のこれらの品々に、吸い寄せられるように近づいて言ってしまうハル。

そして、その先に待ちかまえているのは、巨大な籠が降ってきたり、ねずみ捕りよろしく鉄製の檻に閉じこめられたり、ロープに足を捕られて宙づりにされたり。
恋する乙女には、あまりに酷い仕打ちが待ちかまえていた。
しかし、当初の約束通り、それらの仕掛けは遊びの領域を出るものではなく、危険なものは何一つ無かった。

そもそも、面倒な仕事を丸投げされたヴァリアーは、まともにハルを諦めさせるつもりなど毛頭無い。
相手がベルフェゴールなのは気に入らないが、ヴァリアーのメンバーは皆一様にハルを気に入ってる。
ハルを遠ざける理由は、ヴァリアー側には存在しない。
仕方ないから、適当に相手してやれ的にハルに試練の罠を仕掛けたが、結局ダメでしたーとか何とか、ボンゴレのガキどもに言っておけ。
程度の罠のはずでした。
というより、その程度の罠です。現実に、マジで。

こんな見え見えの手に引っ掛かる人間なんていねーよなー、なーんて苦笑しながら罠を仕掛けるメンバー達も、最近は焦りの色が出て来ている。
もちろん、ハルが罠に掛かってすごすごと引き返していくたびに、ベルフェゴールの機嫌がすこぶる悪くなっていくからなのは言うまでもない。
幹部達は大丈夫かも知れないが、平メンバー達には死活問題である。
文字通り死と隣り合わせの日々に、ハルを待ち受ける罠はどんどん見え透いたものに変わっていっているのに……。
それでも、「はーひーぃー」というハルの悲鳴は欠かすことなくヴァリアーアジトに響き渡る。

「ハルさぁー、実はオレを好きじゃないとか、そういう事?」

「はひっ。なんて事言うんですか、ベルさん。ハルが、ハルが毎日どれだけ苦労していると!」

「はあっ?苦労ー?」

「あ、その、いえ、ハルだって、努力はしているんですよ。精一杯の」

「結果、伴ってねーじゃん」

あまりな言葉ではあるけれど、それも仕方がなかった。がっくりと項垂れるハル。
今日の罠は、さすがにハルだって怪しい事は分かっていた。
廊下に、ポツンポツンと等間隔で落ちている、白いセロファンに包まれているお菓子たち。
ひとつ、ふたつと拾っては見たけれど、その先に何が待ちかまえているのかは、一目瞭然。
すべてを拾ってはいけない!
幸いにして、今日はひとつずつ落ちているそれらのお菓子を、2〜3個ほど拾って素通りすれば良かったのである。

でも、でもである。
今日落ちていたのは、かつて目前で手に入れる事を諦めざるを得なかったあの幻の(実はそれ程でも無いのだが)生キャラメル。
TDLの人気アトラクションばりに並んでも手に入れられなかったソレを、ひとつでも残して立ち去るなどハルには到底出来なかった。

「ハルの気持ちも分かって下さいー」

「分かんねって!普通に」

ベルフェゴールにしてみれば、お馴染みのハルの悲鳴が聞こえて、それこそ押っ取り刀で駆けつけて、努めて冷静に声をかけようとしてみれば。
罠に用いられた生キャラメルとやらは、全てハルの胃袋に収まっており。
その残骸に囲まれながら、ハルは愛されてないとか、泣き濡れてるし。
もう呆れる以外にする事など無く、とりあえずハルに声を掛けてみた。
そして、今に至る。

「あーマジ、頭痛てぇ」

「…ベルさん」

「んじゃ、オレ、部屋戻るから」

「はひぃー、ベルさん、ハルを見捨てるつもりですか」

「そのうち、誰かが引き上げてくれんだろ。じゃーなー」

「そうじゃなくて、って、ベルさん聞いて下さい」

すっと立ち上がり踵を返して立ち去ろうとするベルフェゴールに向かってハルが叫んだ。
そのまま行ってしまうかに見えたベルフェゴールは、それでもハルの所に戻って来ると落とし穴を覗き込んだ。
何か言って欲しげに、ジッと見つめてくるハルを、ベルフェゴールも沈黙したまま見下ろしている。

「ベルさん、もうお終いですか?」

「ん?」

「もう、ハルに愛想尽きちゃいましたか?」

「はー。何?もう音ーあげちゃってるわけー?」

「質問しているのは、ハルの方です!こんな時まで茶化さないで下さい」

怒りをぶつけて来ているものの、先程までとは打って変わった絶望的な涙を静かに落とすハルを、しかしベルフェゴールは静かに見つめているだけだった。

「…っふ、だっ、ど、どうし…、て、何…にも、言って、…」

「泣きたいのは、こっちの方だってーの。イヤ、王子が泣いたりとかは無いけど」

「ふえっ?ど、どうし、て、ベルさ…ん…が、はっひゃっ、っ」

「もうちょっと落ち着いてからしゃべれよ」

「は、はい」

俯いたままではあるが、どうやら涙は止まったみたいだ。
ハルはこういうところはとても素直である。
今も、一所懸命に涙を止めて、そしてきちんと話ができるようにと深呼吸を繰り返している。

落とし穴の淵に腰を下ろすと、ベルフェゴールは暫しハルを見つめていた。

周りに認めてもらいたいとか、祝福されたいとか、幸福な未来図とか、訳分からないシチュエーションとか、ハルのやる事なす事一個も理解はできないが。
それでも、ハルが自分の為に必死で頑張っているのは分からないでもない。
仕事以外では極力外出をせずにハルの訪れを待っていたのも事実だし。
危険は無いはずの仕掛けに、天才である自分でも予測できない何かに引っ掛かって大怪我をするハルとかありそうだと、やきもきしていたのも否定できない。

毎回毎回、お菓子に敗北を喫しているのはハルだけでは無い。
王子の自分だって、あろうことかお菓子と天秤に掛けられて、あまつさえそのお菓子の後塵を拝しているのである。
ありえねーって!
愛されてないとか泣きたいのは、どう考えても自分の方だってーの。

今日何度目かのため息をつくと、上着のポケットから小さな箱を取り出す。

落とし穴の底には、ハルが落ちた時に怪我をしないようにとクッションが敷き詰められている。
そこに、ぽすっと箱を落とすと。

「じゃ、王子ホント部屋戻るから」

「はひっ。ベルさん」

「諦めるなら、オレ止めねーし。ん、でも、まだやる気があるなら…」

ベルフェゴールが去っていく姿はもう見えないが、まだ近くにいる様子はハルにも分かっていた。

「まだ、諦めねーなら…… …待ってっから」

「えっ?」

かすかに聞こえた言葉を聞き返すも、返事はなく、もう気配も感じられない。
聞き取れたはずの言葉も、ハルには何となく信じられなくて。

自分の傍に落ちている箱をそっと手に取る。
それは、たぶんオルゴールで。
蓋を開けてみると、聞こえてきたメロディーは。

「これ?この曲は」

聞き覚えのあるメロディー、たしか、ディズニーの……。

「うそ…」

折角止めたはずの涙が、また零れて来た。でも今度は、悲観にくれての涙では無くて。
オルゴールの音色が優しすぎて、流れてくるメロディーが嬉しすぎて。

白雪姫が、夢見るように歌うこの曲は。

『いつか王子様が』



ハルの王子様は、やって来てはくれないけれど。

『いつか王子様がやってきて』

ハルが押し掛けないと行けないけれど。

『彼のお城へ行くの』

頑張って乗り越えなければならない苦難はあるけれど。

『そして永遠に幸せに暮らすの』

それでも、王子様が待っていてくれるのならば。

『いつか夢はかなうでしょう』



「はひーっー!!、ベルさん!ベルさーん。ハル必ず行きますからーハルがきっと迎えに行きますからー」

茨の道を乗り越えて、ハルの愛する王子様のもとへ、そうしたら、怠惰な王子様が待っている。
惰眠をむさぼりながら、きっと、ハルの訪れを待っている。

とりあえず、今為すべき事は。

「だーれーかー。助けてくださーい。ヘルプミーでーす。ここから出してくださーい」

今日もハルの元気な声が響き渡る、ヴァリアーアジトでありました。






余りに可愛過ぎるハルちゃんの夢、そして行動にクラクラしました。
夢はきっと適うもの、ハルちゃんファイトです!
今度はお菓子の誘惑に負けないで、ベル王子を迎えに行きましょうね(´▽`*)
ヴァリアーにもボンゴレにも、ハルが本当に愛されてて和みました。
まお様、どうも有難う御座いました!







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