いざ去らば







初めて会ったのは、ツナの部屋で勉強会をしていた時だった。
その時はただ何となく、面白い女子中学生がいるというイメージがあるばかり。
それから後も度々出会ったが、ツナの共通の友人として楽しくやってきた。

…つもりだった。

自分の気持ちにハッキリと気付いたのは、彼女が獄寺と一緒に歩いている所を見た時だったと思う。
二人は何時もの如く、威勢の良い怒鳴り合いの喧嘩をしていた。
毎回毎回、よくそれだけ喧嘩のネタがあるなと感心させられる。
それぐらい、二人は会う度に派手な喧嘩を繰り広げていた。
けれどあの日は違った。
偶々二人の喧嘩に出くわしたあの時。
彼女に向ける獄寺の視線が和らぐ一瞬を見てしまった途端、それまでモヤモヤしていた感覚が、急激にクリアになった気がして眩暈さえ覚えた。

もしかすると、獄寺は彼女の事が好きなのか――?

彼女の方は、獄寺の気持ちに気付いた様子はない。
それでも何時かは気付いてしまうだろう。
自分より遥かに、獄寺は不器用に出来ている。
激昂しやすい性格でもあるし、自分の感情をまだ制限出来ていない。
だからこそ、その全身から滲み出る情熱を彼女が感じてしまうのは、恐らくそう遠くない未来だと簡単に予想出来る。
「あーぁ…。参ったな」
片手で頭を掻き毟っても、何の解決にもならない。
それでもそうせずにはいられないのは、獄寺の事を友人として大切に思っているからだ。
「同じ女の子好きになっちまうなんてなぁ…」
思わず溜息が出てしまう。
初恋は実らないというが、本当にその通りだと思う。
自分は恐らく、彼女に告白する事は出来ない。
少なくとも、獄寺が彼女ではない別の誰かを好きにならない限りは。
「それも無理があるよなー」
獄寺は一途だ。
それは綱吉に対する態度を見ていれば一目瞭然である。
だから、きっと彼女に対してもその想いを変える事はないだろう。
ならば自分はどうすれば良いのか。
そう自問して苦笑する。
そんな事、最初から決まっている。
彼らの傍で、友人として見守り続けるだけだ。
この先二人がどんな関係になろうとも。


恋人同士になってしまったとしても。


「うっし、いっちょ素振りの練習でもしてくっかー!」
愛用のバットを片手に、何時もの練習場へと向かう。
結論が出た事で胸の奥が微かに痛んだが、それはひっそりと心の中だけに仕舞い込んでおく。
きっとこれからも、同じ感覚を度々味わうだろう。
けれど、今の自分の結論を後悔する事はない。


彼女に対する好意も、獄寺に対する友情も、等しく同じものだから。







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