変わり変わって変わる時3






「エース君、聞くんだけどさー…」
「何」
「ハル、何であんな顔してんの」
ベルフェゴールが示した先にいるハルは、今までに見た事が無い程晴れやかな表情で歩いていた。
それはもう見事な笑顔を辺りに振りまきながら、雲雀とベルフェゴールの十数歩後ろをついて来ている。
ハルの性別が変わってしまって、今日で丁度二週間目。
確か3〜4日前までは、悲嘆に暮れる毎日を過ごしていた筈なのだが、ここ数日見ない間に彼女…いや、彼に一体何があったというのだろうか。
「あぁ、多分限界超えたんだろうね」
「何の?」
「沢田に会えない限界点」
「………」
雲雀の素っ気無い返答に、ベルフェゴールは沈黙した。
成る程。
つまりはある意味、キレてしまっている訳か。
そう理解した瞬間、彼も又雲雀と同じく、ハルを心配する気持ちは遥か彼方へと消え去ってしまう。
そして入れ替わりに沸き上がるのは、沢田綱吉に対する理不尽なまでの腹立ちだ。
「…なんだって、そんなにアイツが良いんだか」
「知らないよ、そんなの。それより君、例の医者はどうしたの」
「あー、駄目。アメリカまで行ってみたんだけどさ、見事に足跡消して行ってる。オレらヴァリアーでも足取り掴めねーんだから、大したもんだと思うぜ、そのシャマルって奴」
両手を頭の後ろで組み、ベルフェゴールは空を見上げて呟く。
殺し屋たるもの、情報収集もお手の物。
ましてやヴァリアーともなれば、精鋭中の精鋭だ。
それら全員を相手に消息を絶っているのだから、これはもう見事と言うしかない。
「感心してる場合かい?」
「そりゃそうなんだけど…仕方ねーじゃん?」
は、と溜息を吐くベルフェゴールに、雲雀は胡乱な視線を投げると、背後を見る様に促す。
「?」
言われるままに視線を辿ると、其処には何時の間に現れたのやら、2〜3人の女子中学生に囲まれているハルが居た。
僅かに戸惑いながらも律儀に少女達の相手をしているハルに、黄色い声が引っ切り無しに上がっている。
丁寧な言葉使いに優しい態度、何より美少年ともなれば女の子達が放っておく筈も無い。
「……何、ハルってあんなモテんの?」
「元が良いからね。あれを見ても呑気にしていられるっていうのなら、僕はもう何も言わない」
「あー…」
「ちなみに3日前位から、三浦のファンクラブも出来たそうだよ」
「マジ?」
「彼女の性格なら、その内、あの女子達に絆されるだろうね」
「それって、まずいんじゃね?もしも、ハルとあの女達のどれかが付き合う事にでもなったりしたら…」

彼女の事だ。
男として付き合うのなら、責任を取って相手との結婚までも、しっかりと考えるに違いない。
そうなれば最後、確実にハルは女性体に戻る事を諦めてしまうだろう。
そして自分達は、同性相手に報われない恋愛感情を抱く羽目になってしまうのだ。

「だから事は急を要するんだ。最悪、沢田に話してでも例の医者を見つけないといけない」
雲雀の言葉に、ベルフェゴールは深く同意した。
正体を絶対に知られたくないと頑張るハルには悪いが、沢田綱吉に手を借りるのが一番なのは確かだった。
彼のバックにはリボーンもいれば、シャマルと深い知り合いであるビアンキ等も居る。
他人の手を、ましてや恋敵の手を借りるのは癪だが、四の五の言っていられる状況でも無くなって来たのだから仕方があるまい。
ハルが誰かと付き合うのを大人しく認可するなど冗談では無いが、それ以上に男に惚れたまま行き場の無い想いを抱えるのは更に御免だった。
「いえ、ハルは…いや、俺は…」
取り巻きに腕を引っ張られ、連れて行かれそうになって慌てるハルの言葉に、雲雀とベルフェゴールは思わず顔を見合わせた。
外見に合わせて喋り方も懸命に変えようと努力しているのだろうが、今の二人にとってそれは非常に有難く無い。
「急ぐよ」
その冷ややかな目でハルの取り巻きを牽制し、彼の腕を引っ張り連れて来る雲雀の姿を視認すると、ベルフェゴールは先に立って歩き出した。

目的地、沢田綱吉の家へと。







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