くすぐるもの








「三浦」
「はひ?」
「何つけてるの」
「何って何の事でしょう?」
「香り」


雲雀は先程から頭を押さえていた。
やけに目の前がクラクラして仕方が無い。
原因は、恐らく隣にいる少女の香水だろう。
「気付かれちゃいましたか」
ハルは嬉しそうに笑うと、鞄から可愛らしい装飾の施された小瓶を取り出す。
「これ、お父さんからのプレゼントなんです」
にこにこと小瓶を目の前で振られ、雲雀は非常に嫌そうな顔をした。
小瓶に貼られているラベルに書かれている成分の中に、非常に嫌な文字を見つけてしまったせいだ。
英語で書かれてはいたが雲雀には簡単に読めた。

成分、桜。

「貸してくれる?」
「はへっ?ヒバリさんが使うんですか?」
「いいから」
驚きながらも小瓶を手渡すと、雲雀はそれを遠くへと放り投げてしまった。
「あー!!」
カシャンと小さいながらも無残な音が耳に届く。
「ヒバリさん、何て事するんですかー!せっかくのプレゼントがぁぁ」
半泣き状態のハルを横目に、雲雀はやはり頭を押さえた状態で小瓶の最期を眺める。
「ヒバリさんは鬼です!デーモンです!!」
「……」
「あれ、海外のお土産なんですよ!あっちでは凄く人気がある商品で、せっかくお父さんが買ってきてくれたのに!!」
砕け散った小瓶へと駆け寄ろうとするも、力強い雲雀の腕がそれを許さない。
「ひゃっ」
グンと勢い良く引っ張られ、ハルは雲雀の胸の中に頭を激突させた。
「ヒバリさん?」
「行くよ」
そのまま小瓶から離れる様にしてズンズンと歩き出す雲雀に引っ張られ、成すすべもなくついて行く。
ハルは悲しそうな目を小瓶へと向けていたが、帰宅とは違う道へ歩き出す雲雀に首を傾げる。
「何処行くんですか?」
「……」
「こっちは道違いますよ」
「香水」
「?」
「香水、代わりのを買ってあげるよ」
「!」
目を見開いて雲雀を見つめるが、彼の足取りが緩む事はない。
それに呼応するかの如く、ハルの顔は次第に緩んでいく。
「ヒバリさんー!」
がばっと抱きつくと、桜クラ病に侵されている雲雀は一瞬だけよろけた。




「ヒバリさん、あの匂い嫌いだったんですね」
「さぁね。で、どれにするの」
「迷いますー。あ、これ男女ペアになってる香水ですよ!これがいいかなぁ…」
「僕はつけないよ」
「はひっ」
それから一時間近く、香水売り場の前で問答をしているカップルの姿があったとか何とか。







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