適当なログを集めています。
ハル受以外の単品や、色物なハル受等色々な小ネタです。
▼リボーン
軽い軽いタップで踊るダンサー。
誰もが嘲りの意味を込めて笑う中、一人の老人だけがただ何も言う事無く、そのダンサーを眺めていた。
恐らく、彼には解っていたのだろう。
その軽さこそが、そのダンサーの信念だという事を。
周りは重低音の嵐、けれどそのダンサーだけは軽い足音で踊り続けた。
周囲に流されず、笑われてもただただひたすらに己の信念を貫き通す。
どれ程の強さがあれば、出来る事だろうか。
どれ程の決意があれば、貫ける事だろうか。
それを貶める権利を持つのは、そのダンサーだけだという事に、今笑っている者達は果たして気付いているのか。
踊り終わったそのダンサーに、老人は拍手を送る。
ダンサーはお辞儀をひとつ、舞台から消えた。
ただ一人の理解者に、親愛の情と感謝の意を込めて。
周囲の者は誰も気付かない。
この二人のやり取りが、どれ程に素晴らしいものであるかという事に。
気付こうともしない。
同じ空間に居ながらも、彼らの世界は深い隔たりを持っていた。
きっとそれが人の考えという物であり、個性や感性という物なのだろう。
そのどちらにも共感する事のない傍観者は、黒の帽子を目深に被り直した。
傍観者の肩に乗っていた緑のカメレオンが、不思議そうに首を傾げて主を見上げる。
「何でもねぇ、単なる鑑賞だ」
ウィスキーの入ったグラスを持ち上げ、傍観者…黒スーツに身を包んだ青年は笑って仰いだ。
▼綱吉
それはまるで砂時計の様に、ただただ上から下へと零れ落ちる。
事象を在るがままに受け入れ、その時の自分にとって最善と思われる選択肢を選ぶ。
人生とは、そんなものだ。
少し人より特殊な環境に身を置いていようとも、実はそれ程大した問題では無い。
全ては自分の胸先三寸。
気持ち次第で幾らでも、それは毒にも薬にも変化するのだから。
「では、これは?」
街角の占い師が、水晶へと映された光景を見せ付けては醜く笑う。
其処に映っていたのは、自分の居ない近い未来。
運命共同体の仲間が全員死に絶えた、そんな世界。
男は帽子を目深に被ると、ニィと口の端を上げて笑った。
「それも一緒だ。俺の生死も、他の事も全てな。何一つ、変わらねぇ」
男の指先がピンと弾いたコインが、台座の一角に落ちる。
甲高い音を立てたそれを眺め、占い師は深い深い皺の刻まれた目を閉じた。
そして老婆は夢を見る。
あの男が死に、彼の尤も身近に居た存在もまた死ぬ、そんな残酷な未来絵図を。
けれど、其処に割り込む光が一つ。
希望という名のオーラを纏ったその存在は、或る意味この世界の最後の砦とも言えた。
「ほぉ…。面白いのがおるもんじゃ」
死ぬ気の炎と呼ばれるそれを全身に漲らせ、力強い瞳で世界を見据えるその光。
彼こそが、この世界を変える存在である事を、老婆は感じ取っていた。
尤もそれは、今暫く先の話。
まだ見ぬ未来の、遠い世界のお話。
▼白蘭×ハル
振り返らないで。
ほらほら、早く逃げないと捕まってしまうよ。
背後から追い駆けて来る怖い物に、どんどんどんどん距離を詰められてさ。
急いで、急いで。
もっともっとスピード上げて、全力で逃げて。
恐怖の叫び声すら上げられない程、息を切らせて走って。
あぁ、駄目だよ。
背後なんて見ていたら、それだけ足が鈍くなるでしょ?
そんな暇があるんなら、走らなきゃ。
でないと、ホラ、もう直ぐ追い付いてしまう。
「ツカマエタ」
▼15歳雲雀&65歳ハル
柔らかな風が吹いている。
秋から冬へと移ろう時期だというのに、川辺に近いその場所だけは何故かとても温かく、そして優しさに満ちていた。
例えるのであれば、そう――春の陽だまりみたいに。
「あらあら、今日もいらっしゃったんですか?」
枯れ草を踏みしめる足音に気付いたのか、彼女は皺の寄った目元を綻ばせて此方を振り返った。
「…別に。他にする事もなかったからね」
「ふふ。ハルとしては、話し相手が出来てとても嬉しいですけど」
クスクスと軽やかな声で笑うその表情は穏かで、見ているだけで不思議と心が落ち着いて行くのを感じる。
「僕は、話しをしに来ている訳じゃない」
まるで全てを見透かされているかの様な気恥ずかしさに、態と素っ気無い対応で隣に腰を下ろした。
初めて出会った時には大分離れていた距離は、何時の間にかこんなにも近付いてしまっている。
「そうでしたね。今日はお日様も良い具合に輝いてらっしゃいますから、きっと素敵な夢が見られますよ」
細められた目は穏かで、此方がどんなにつっけんどんな対応をしても、常に優しい笑みで受け止められていた。
「………」
草叢の中へ背を投げ出し、そのまま頭の後ろで両手を組む。
燦々と降り注ぐ陽光を浴びながら微笑む姿が、瞼を閉じる瞬間、くっきりと瞼の裏に焼き付く。
…年の頃は、60半ば位だろうか。
何時も同じ場所に腰を下ろし、ただ川の流れを見ているだけのその姿に、興味を惹かれて近付いたのはもう一ヶ月も前の事だ。
「雲雀さん、寝てしまわれましたか?」
そっと掛けられる声には、敢えて返事をしないでおく。
優しく髪の毛を梳かれるその感触を、まだ終わらせたくはなかったから。
▼綱吉&ハル
様々な資料を両手に、綱吉とハルは議論を交わしていた。
「何でオレがこんな事をやらなきゃいけないんだよ…」
情けなく呟く綱吉に、しみじみとした口調でハルが返す。
「でも、他の人に配役を勝手に決められるよりは、自分達で決めた方が良いと思いませんか?」
「………」
その余りにも尤もな言葉に、綱吉は何も言えなくなってしまう。
過去に酷い目に合わされた身としては、寧ろ其方の方が好都合なのだから。
「あ、これなんかどうですか?」
重く沈んだ空気を払拭する様に、ハルが明るい声で一枚の資料を差し出した。
「どれ?…『狼と七匹の子ヤギ』かぁ」
「はい。ハルが狼で強い役なんてどうでしょう?」
「子ヤギはどうするんだよ」
「それは勿論、ハルがリベンジしたいと思っている、ヒバリさんとかベルさんとか…」
「…ハル。お前、三匹の子豚の時の事覚えてる?」
「はひ」
「台本通りにあの人達が動いてくれる訳ないだろ。三人相手でも駄目だったのに、今度はそれが七人になるんだぞ?」
「………」
「どっちが狼でどっちが子ヤギだか解らない様な結末になると思うけど」
「そうですね…」
当時を思い出したらしく、ハルは差し出していた資料を暗い表情で引っ込めた。
代わりの資料を探すべく、綱吉が床の上に積み上げられている資料の山に頭を突っ込む。
「人魚姫とか、ラプンツェルとか…あ、マッチ売りの少女とか」
やがて取り出された紙面を覗き込み、ハルは大きく頷いて賛成の意を示す。
「その辺なら出来そうですね。マッチ売りの少女なら、登場するのは街の人と女の子一人だけですし」
「うん。次のパロはこれで行こうか?」
「はい。それじゃ、リボーンちゃん呼んできますね!」
喜び勇んで部屋から出て行くハルを見送り、綱吉は簡単に背伸びをして壁に凭れ掛かった。
「はー…次こそはちゃんと出来ると良いんだけどなー…」
昔馴染みのストーリーが書かれている紙面を眺め、溜息と共に小さく呟く。
元をどの童話にするにせよ、上手く物語が進むか否かはこれから決める配役次第だと、綱吉は深く深く理解していた。
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