▼正一&はる(旋律は繋がりての一部)

扉を開けた先に見えたのは、慌しく部屋の中を走り回っている子供の姿だった。
未だ1歳にも満たないこの子供は、外見だけは既に5歳程度にまで達している。
しかし、その頭脳は大人の物だ。
とある人物の脳髄をそのまま再現し、そして入れ込んだのだから最初からある程度の知識も備わっている。
多少言語に不自由があるものの、抜群の記憶力がそれを補ってくれるだろう。
これから勉学を取り込めば取り込む程、この子供は瞬く間に成長する筈だ。
「はる。部屋の中を走るんじゃない」
静かに声を掛ければ、それまで全く此方に気付きもしなかった顔が向けられる。
「あ、しょー」
「何処か行くのか?」
子供は右手に分厚い教本を抱え、左手にペンケースを持っていた。
大抵は机の上に放り出されているそれらを手にしているという事は、部屋を空ける証だ。
「はひ。すぱのとこ」
案の定な行き先を聞いた途端、正一の眉間に皺が寄せられる。
「またスパナの所か…。此処のところ毎日じゃないか」
「…だめ?」
「駄目じゃない、が…」
その内はるはスパナと会えなくなる。
本人には未だ伝えてはいないが、それは確実に訪れる別れだ。
出来る事なら、早目に引き離しておくべきなのだが…。
「解った、解った。だからそんな目をしないでくれ」
じっと自分を見上げてくる幼い瞳に根負けし、正一は深い溜息を代償に許可を与えてしまう。
何だかんだ言って、彼もまたこの子供に甘い人間の一人だった。
「ありがとう!しょーだいすき!!」
ぴょんと飛び跳ねて抱きついて来る子供の頭を撫で、床へと落ちてしまっている教本とペンケースを拾い上げる。
昨夜見た物とは違う真新しいそれは、今朝方白蘭がはるへと送って来たものだ。
凄いペースで知識を吸収している子供に感心し、正一は一度はるへと視線を落とす。
「はる、勉強は辛くないか…?」
「はひ?だいじょうぶだよ?」
心配そうな声音に、不思議そうな表情が返される。
其処に苦痛を隠している色は全く見当たらない。
はるは本心から勉強を苦痛とは思っていないのだろう。
「そうか…。気を付けて行くんだよ。走り過ぎてこの前みたいに転んだりしないように」
「うん、わかった」
正一の手から教材を受け取り、はるは一度だけ大きく頷く。
そのまま早歩きで部屋から出て行く後姿を眺め、正一は再び息を吐いて部屋の中を見渡した。
既に習得し終えた教材の山と、息抜きにはるが読んでいるであろう絵本の数々が、部屋の片隅に寄せられている。
染み一つない白い部屋は、まるで病室の様だ。
こんな部屋で子供が健康に育つとは、到底考えにくい。
しかし、それでもはるをこの部屋、この施設から出す訳にはいかなかった。
理由は様々あれど、白蘭の命令第一という事と、後はボンゴレの関係者にはるを見られる訳にはいかないからだ。
しかしそれでも、せめて一度くらいは外の光を浴びさせてやりたいとは思う。
普通の子供の様に、元気良く伸び伸びと育って欲しいと、そう願ってもいる。
白蘭の元にいる限り、それは恐らく適えられない事なのだろうが…。
スパナに一番懐いている子供の笑顔を思い出し、瞬間胸を締め付ける息苦しさに心臓を押さえる。
「はる…はる、………ハル」
脳裏に浮かぶのは、はるではない一人の女性の姿。
はると同じ、輝く様な笑顔を浮かべた、正一が心の底から愛した人物。
二度と会えない彼女の姿に、はるを重ねている自分に時折酷く嫌気が差して止まない。
はるを造り出した張本人は、一体何を考えているのだろうか。
ハルを手に入れたという気分でも味わうつもりなのか、それとも―――…。
微かに痛み始めた腹部を押さえると、壁に寄り掛かって腕に付けた通信機を見遣る。
聞きたい事は山程あれど、彼の出す答えが酷く恐ろしい。
正一は通信機へ伸ばした指先を、躊躇う様に二、三度動かし、結局触れる事無く引っ込めた。




▼沢田綱吉

誰かを守るという事は、即ち誰かを傷付けるという事だ。
甲を取れば乙は無く、乙を選べば甲を失う。
人生は常に二択の選択に苛まれる道筋の様な物である。
望むと望まざるとに関わらず、必ずどちらか一方を選ばねばならない事も多い。
そして、沢田綱吉にもまた、それは例外無く襲い掛かって来た。
「………」
照準を合わせた銃口が、カタカタと震える。
初めて人に向けた凶器は己の拳だったが、これは全く違う。
重い鉄の塊は、明らかに相手を殺す為の道具であり、狂気でもあった。

―――あぁ、いっそ本当に狂ってしまえればどんなに良かった事か!

何かの長となって動くというのは、こんなにも責任が重いのだと、今初めて解った気がする。
頭の中に浮かぶのは、バランスが取れずにユラユラと揺れ動いている天秤だ。
一方はボンゴレファミリーという組織全員の命。
一方は自分が幼い頃より持ち続けて来た正義感。
前者を選べば人命が助かり、後者を選べば自我が保たれる。
どちらを選ぶかなど端から解りきった様なものだが、それでも一瞬の迷いが引き金に掛かった指先を動かせないでいた。
「オレは何も言わねぇ。これはお前が決める事だからな」
「リボーン…」
静かに紡がれた彼の言葉が、全ての決断を迫っている。
どうすれば良い?
皆が幸せになれればそれで良いと、オレはずっと思っていたんだ。
この組織に身を投じたのだって、それが一番の理由だ。
でも自分達だけが幸せならばそれで良いのか?
守るべきは、ボンゴレファミリーだけなのか?
他の組織、例えそれが敵であったとしても、それらはどうでも良いと、オレはそう考えていたのか?
「くそ…」
何て重圧感だ。
部屋中の空気という空気が、まるで自分を押し潰そうとでもしているかの様だ。
「時間切れだ。選べ、ツナ」
組織を生かすのであれば、目の前の男の死を。
彼の命を生かすのならば、仲間達全員の死を。
どちらを選んでも、誰も何も責めやしない。
全ての決定権はボンゴレ10代目、沢田綱吉その人にあるのだから。
両方を選択する事は、どう足掻いても出来ないのだ。
それならば。
終始不適な笑みを浮かべている白い男の眉間を狙い、引き金はゆっくりと角度を曲げて、そして綱吉の声無き絶叫と共に弾丸は放たれた。




▼ベルフェゴール×ハル(途中終了)

グルグルと丸められ、脳内に詰め込まれた異常な感覚。
もしもそれを全部取り出せたとしたら、その時自分は一体どうなってしまうのだろうか。


「デンジャラスでクレイジーでスプラッターです!」
血の海と化した室内に、ハルが悲鳴を上げる。
雑巾を一枚だけ持った姿が奇妙に笑えてしまい、ベルフェゴールはニィと歯を見せて少女を出迎えた。
「何で?ゴージャスでハッピーでパラダイスじゃん」
彼女曰くハル語に合わせて返事をしたのだが、どうやらお気に召さなかった様だ。
部屋の中央に立ったまま両手を広げると、粘着いた赤い雫が指先から床へと滴り落ちる。
波紋を広げる程の水溜りと臭気に、ハルの顔が嫌そうに顰められた。
「どうして毎回毎回、こんな事するんですか」
放り込めばたちまち真っ赤に染まるであろう布切れを見下ろし、ハルは諦めた様にそれを持ったまま近付いて来た。
「だって楽しいしー?」
「何処がですか!」
「獲物が死ぬも生きるも、オレのナイフ一本で命運が決まるんだぜ?それ楽しくね?他人の人生を握ってるも同然って事だし」
「…そうやって、ハルの人生も握るつもりですか」
不貞腐れた様な少女の口調に、ベルフェゴールはその顔をひょいと覗き込む。
「ハル?」
「ベルさんにとって、ハルって何なんですか」
口調に相応しい顔付きで、ハルは視線をふいと逸らした。
普段自分から何かを質問する時は必ず真っ直ぐに人を見るだけに、俯きがちな今の相手はかなり珍しい。
「何って、ハルはハルじゃん」
「そうじゃなくてですね!」
飄々とした態度に、ハルの顔に怒りの気配が宿る。
拗ねたり怒ったり、本当にコロコロと良く変わる表情だ。
「ハルはベルさんの手下ですか?それとも都合の良い便利な女なんでしょうか?」
「………」
突然何を言い出すのかと、ベルフェゴールは呆れた。
しかしそれがどうやら不味かったらしい。
答えが返って来ないのを見るや否や、ハルの眦にじわりと涙の気配が映る。
「もう、良いです…」




▼三浦ハル(指きりげんまん)

「指切り拳万、嘘吐いたら針千本飲ます」

指、切った。

小指を切るのは、不変の愛の証。
決して変わらぬ貴方への想いの枷。
それを貴方にお渡しします。
ですからどうか、ハルを裏切らないで下さい。
何処へ行ってしまっても構わない。
誰か別の人を好きになっても構わない。
けれど、どうか、ハルの事だけは決して忘れないで。
指の一本を落とした女の事を、ずっと覚えていて。

約束が破られれば、貴方は拳で万回も殴られるでしょう。
細く鋭い千本の針を飲まされるでしょう。

約束とは尊い物。
決して破られてはいけない、誓約なる物。
ある種、契約にも似た代償がその小指。
それが貴方とハルを繋ぐ標。

忘れないで、覚えていて。
それが、私達の絶対の約束。

これが一人の遊女の、覚悟を決めた本気の恋。




▼5歳はる(エイプリルフール)

はる「しょー、しょー。あのね、きいて」
正一「…ん?どうしたんだ、はる」
はる「はるね。しょーのこと、だいっきらい」
正一「………え?」
はる「きらいなの。だいきらいー」
正一「…はる。それは抱きつきながら言っても、全く説得力がないよ」
はる「はひ?」
正一「どうせエイプリルフールとかいうネタなんだろ?誰に吹き込まれたのかは知らないけど。あぁ、また白蘭サンか」
はる「ううん。すぱ」
正一「スパナ?あいつ、こんな事知ってたのか…」
スパ「ん。ウチも色々勉強してるし」
正一「うわっ!いきなり背後から来るなよ」
はる「すぱー。しょー、だまされてくれなかったよ」
スパ「…いや、この顔はちょっと騙されたって感じがする」
はる「?」
正一「煩い」
スパ「どうせはるが抱きついて、それで初めて解ったってオチなんだろうけど」
正一「煩いって言ってるだろ。それより勉強って…お前がやってるのか?」
スパ「うん。仮にも父親だからね、今のウチは。勉強ばかりじゃなく、こういった系の知識も必要かと思って」
正一「いや、其処までは求めてないんだが…。てっきりこういうのは白蘭サンの役目だと思ってたから、正直驚いたよ」
スパ「あぁ、白蘭にも仕掛けて来たよ。さっき」
正一「へぇ。で、成果は?どうせ騙されないだろうけどね、あの人は」
はる「びゃくはねー、なん…ふがっ」
スパ「しー。はる、それは今は内緒にしておくんだ。どうせ直ぐに解るんだから」
はる「ふがふが…?」
スパ「そういう事で、ウチらはもう戻るから。正一、後は宜しく」
正一「……後は?一体何が――あ、通信だ。この信号は白蘭サンからだな」
スパ「行こう、はる」
はる「むがが?」
正一「おい、スパナ。はるの口から手を離してやれ、可哀想だろ…って、逃げるの早いな」
白蘭「正チャン」
正一「はい、何でしょう。………白蘭サン?」
白蘭「ちょっと聞きたい事があるんだけどね」
正一「はぁ…。まぁ、僕で答えられる事であれば何でも答えますけど、それよりどうしたんですかその顔。今にも泣きそうですよ。背後も暗く淀んで見えますし」
白蘭「はるが…はるが反抗期に入ったみたいなんだ」
正一「は?」
白蘭「どうしよう。僕がなかなか顔を見せないから、怒っちゃったのかな?ねぇ正チャン、どうすれば良いと思う?」
正一「いや、なかなかも何も、最近は毎日の様に顔合わせてるじゃないですか。充分過ぎる位ですよ。寧ろ、ちゃんと本来の仕事しろと言いたい程です」
白蘭「やっぱりお菓子とかこまめに持っていくべきかな。はるが好きなのはモンブランだっていうのは解るんだけど、毎日モンブランっていうのも飽きそうだし…他に何が良いんだろう」
正一「いや、人の話聞いて下さいよ」
白蘭「あぁ、まさかあのはるが反抗期だなんて。このまま嫌われたままじゃ僕、泣きそうだよ」
正一「もう既に泣きかけじゃないですか。で、何ではるが反抗期だなんて思ったんですか?」
白蘭「嫌いだって」
正一「え」
白蘭「大嫌いだって言われたんだ…。突然。凄く可愛い笑顔で」
正一「それって…」
白蘭「やっぱり反抗期だよね?…うん、こうなったらもう、ケーキ全種類取り寄せて贈ろう。で、一日20時間は傍に居る事にしよう」
正一「は、ちょ、待っ…」
白蘭「こんな事してる場合じゃないね。直ぐに注文しないと」
正一「だから白蘭サ――信じられない。一方的に通信切ったよ、この人。…今日がエイプリルフールだって事に気付かない程、ショックだったのか…?いや、それより一日に20時間って、逆にウザがられそうなんだけど」




▼白蘭×ハル(エイプリルフール)

白蘭「正チャン、今日はエイプリルフールなんだってね」
正一「いえ、それは昨日で終わりました」
白蘭「嘘吐いても許される日なんだって。そんな日があるなんて、面白いよね」
正一「相変わらず人の話を聞きませんね、貴方は…」
白蘭「それで僕も考えたんだよ。今からハルの所にいって実行してみようと思うんだけど、正チャンも来る?」
正一「僕はまだ研究の続きをしないといけないので、遠慮しておきます」
白蘭「来ないと給料50%カットするよ?」
正一「………」
白蘭「それじゃ、行こうか。ハルがどんな顔するか、ちょっと楽しみだね」
正一「ついて来て欲しいなら、回りくどい言い方しないで下さいよ…全く」


ハル「もー、白蘭さん!こんなに仕事溜め込んでどうするんですか!休日出勤してるハルの身にもなって下さい!!」
正一「…何だか彼女、相当荒れてますよ。白蘭サン、ここは出直して来た方が…」
白蘭「ハルー」
正一「聞けよ、人の話」
ハル「あ、白蘭さん!何処に行ってたんですか!!」
白蘭「ん、正チャンのとこ。急に呼び出されてさ」
正一「貴方が勝手に僕の部屋に来たんじゃないですか…。人に罪をなすりつけないで下さい」
ハル「もー、正一さん!駄目ですよ、白蘭さんこんなに仕事溜まってるのに、放り出して行っちゃうんですから!!」
正一「いや、だから僕じゃないって言ってるだろ」
白蘭「それより、ハルに話があるんだ」
ハル「そんなの後にして、先に仕事を片付けて下さい!」
白蘭「大事な話なんだ。だから、こっち優先」
ハル「む、何ですか?」
白蘭「あのね。僕、今度結婚する事にしたから」
ハル「…はひ?」
正一「………」
白蘭「だから、ハルにも言っておこうと思って」
ハル「結婚、ですか?」
白蘭「うん」
正一「…何となくこの先の展開が読めた…」
ハル「わぁ、おめでとう御座います!」
白蘭「…あれ?」
ハル「結婚って事は、もう婚約とかされてるんですよね。挙式は何時ですか?あ、その前に招待状とか、式場とかある程度手配しておかないと…ちょっとパンフレットとか、色々取り寄せて来ます!白蘭さん、その間に仕事片付けておいて下さいよ?」
白蘭「え、あれ…ハルー?」
正一「行ってしまいましたね」
白蘭「う、うーん。まさか喜ばれるとは…」
正一「当然でしょう。上司の祝い事なんですから。まさかとは思いますけど、実は彼女も白蘭サンの事を好きで、それで悲しむとでも思っていたんですか?」
白蘭「うん」
正一「何時も彼女にセクハラしていて、それでも好かれていると思えるなんて…本当に白蘭サンって前向きな思考してますよね。というか周りが見えていないというか…」
白蘭「参ったなぁ。今からエイプリルフールの嘘だって言っても通じると思う?」
正一「まず怒るでしょうね。仕事放り出す程に重要な事が、単なる嘘だと知ったら。そもそも、エイプリルフールは昨日です」
白蘭「やっぱり怒るよねぇ」
正一「どうしてこう、自分に都合の悪い事は完全にスルーなんですか…」
白蘭「あぁ、そうか。実際に結婚しちゃえば良いんだ」
正一「は?」
白蘭「そうだよ、それならハルも怒らないだろうし」
正一「いや、結婚って…誰とするんですか」
白蘭「そりゃ勿論ハルとだよ」
正一「は!?」
白蘭「うんうん、それなら僕も嬉しいし、ハルも嬉しい。まさに一石二鳥だね」
正一「いえ、彼女は喜ぶどころか、寧ろ嫌がるのでは…」
白蘭「そうと決まったら、挙式を何時にするか決めなきゃいけないね。あぁ、その前に婚約指輪と結婚指輪も買っておかないと」
正一「本気ですか、白蘭サン…?」
白蘭「勿論だよ。だって、今日はエイプリルフールじゃないんでしょ?だったら嘘吐いちゃ駄目だしね」
正一「何今更そんな事言い出してるんですか。第一、何時も嘘で塗れてる貴方に言われても何の説得力もありませんし。………まさか白蘭サン、初めからそのつもりだったんじゃ…」
白蘭「何の事かな?」
正一「やっぱり…」




▼フラン×ハル

ハルの視線はその一点のみに集中していた。
背後からとはいえ、此処まで凝視されていればフランでなくとも気付くだろう。
それぐらい、ハルの視線はその箇所へと突き刺さっていた。
「ミーに何か用ですかー?」
「はひっ」
唐突に後ろを振り返れば直ぐ目の前、それよりやや下方に驚いた表情がある。
「……やっぱりハルセンパイでしたかー」
予想通りの人物に、フランは呆れた様な溜息を吐く。
無理も無い。
此処数日、振り返ると必ず彼女の姿があるのだ。
「フランちゃん、ハルは先輩なんて身分じゃないですよ?」
「でもー、ベルセンパイの彼女ですしー。あのボスの秘書でもあるんですから、間違ってはいないと思いますよー」
「そうでしょうか?」
「はいー」
きょとんとした表情で見上げて来るハルは、しかしフランの頭上から視線を外す事は無い。
これも何時ものことだ。
そんなにこの被り物が気になるのだろうか。
片手を頭の上にやり、最早馴染んでしまったカエルの頭を撫でてみる。
途端、ハルの表情が何処かうっとりした面へと変わった。
「フランちゃんのその帽子、凄くキュートですよね」
「えー。ミーは好きで着てる訳じゃないんでー…良かったら一つあげましょうかー?」
手を出したくてウズウズしている様子の彼女に、それとなく誘いを掛けてみる。
「はひっ、良いんですか!?」
思った通り、ハルに満面の笑みが広がる。
子供の様に素直な彼女に、フランもまた自然と笑みを返す。
「はぁ、まぁこんなのでも良ければですけどー。同じ物が洗い替え用に一杯あるんで」
「ほほほ欲しいです!是非!!」
「じゃー、今からミーの部屋に行きましょう。こっちなんでー」
「はひ。嬉しいです!」
道案内と見せ掛けて、ハルの右手を軽く握って歩き出す。
ベルフェゴールは遠い地へと任務で赴いており、今は不在である。
こんな好機は滅多に無いと、フランは一人笑いながら足を進めていた。






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