追いかけて追いかけられて2
ハルは何故か雲雀と一緒に帰っていた。
二人の家は正反対な方向にあるので、帰り道が交わる事がない。
寧ろ、通う学校からして違う。
それなのに何故二人が一緒に帰宅しているのかと言うと、それは単に雲雀がハルに付き纏っているからに他ならなかった。
ストーカー行為を宣言されたのが二日前。
それ以来、雲雀は堂々とハルの前に姿を現す様になった。
そして、まるで恋人の様に自然とハルの隣にいる。
「あの、雲雀さん…」
「何?」
「雲雀さん帰る方向逆ですよね」
「だから?」
「何でこっちに…?」
「君がいるから」
「………」
「君を家まで送ってから、僕も帰るよ。君に悪い虫が付いたら大変だからね」
「いえ、ハルはぜんっぜん平気ですから。雲雀さんだって、帰る時間遅くなってしまいますし…」
雲雀自身が既に悪い虫だと、ハルは思わず突っ込みそうになった。
喉元まで出かかった言葉を無理矢理飲み込むと、ハルは引きつり気味の笑顔で雲雀を帰らせようと試みる。
そんなハルの様子に、雲雀は目を細めて薄っすらと微笑んだ。
「僕の心配をしてくれるのかい?嬉しいよ…」
雲雀はハルを抱きしめ、耳元でそっと囁く。
ち、違いますー!!
ハルは心の中で叫ぶと、何とか雲雀の腕から抜け出そうともがいた。
しかし雲雀の腕はびくともせず、あろうことか顎を持ち上げられる。
これはもしかして、いやもしかしなくてもキスしようとしているのではないだろうか。
「は、離して下さいぃぃぃっ」
「大丈夫、優しくするから」
何を!?
ハルは再び脳内だけで突っ込みを入れると、徐々に迫りつつある顔から何とかして逃げ出そうと、奇妙な方向に身体を捻る。
それが功を奏したのか、雲雀の腕が突如として離れた。
次いでキン、と金属が何かを弾く音も耳に届く。
「はひ…?」
捻っていた身体を戻すと、雲雀は厳しい表情で何かを睨んでいた。
その視線の先を追っていくと、道の真ん中に金髪の少年が立っている。
年の頃は自分とそう違わないだろう。
長い前髪は完全に彼の目を覆い隠しており、どんな顔をしているのかは解らない。
少年の頭にはティアラの様な冠が乗っていて、それが奇妙に似合っていた。
「ハルになにしてるワケ?」
少年は不機嫌そうな口調で雲雀に話しかけた。
片手に綺麗な形をしたナイフを持って。
対する雲雀は、トンファーを構えた状態のまま口端を上げている。
「何って見ての通りだけど?」
「嫌がるハルに手出そうとしていた様にしか見えなかったぜ」
「君、目が悪いんじゃない?」
口元だけの笑みと、冷ややかな口調の応酬にハルは首を捻った。
この少年がハルを助けようとしてくれている事は解るのだが、どうにも彼に見覚えがない。
けれど少年の方はハルを知っているらしい。
「ざーんねん。こう見えてもオレ、目は良いんだよね。ハルがどんだけ遠くにいても、見つける自信あるし」
な、と少年が此方へと顔を向ける。
同意を求められたハルは、けれど困惑顔以外に返す事は出来ない。
「あの、どこかでお会いした事ありましたっけ…?」
恐る恐る尋ねれば、少年は「ん」と頷いた。
「毎日会ってるじゃん?昨日も一昨日もその前も」
「………」
何か、前にも似たような会話を交わした事がある気がする。
とてつもなく嫌な予感が、ハルの頭をよぎった。
「いえ、覚えがないんですけど。……人違いじゃ?」
「間違いなくハルだよ。ま、声かけたのは今日が初めてだけど」
やっぱりか!
雲雀とほぼ同じ事を言う相手に、ハルは眩暈を覚える。
これは一体何の冗談なのだろう…。
一人ですら手に余るというのに、また一人増えるなんて。
「まるでストーカーだね」
「オマエに言われたくねーよ」
げんなりとしたハルを他所に、無自覚な二人のストーカーは睨み合っている。
何時ものハルであれば、二人が手にしている武器に仰天しているところだが、今はそんな事に気を回す余裕すら持てない。
今の彼女が思う事はただ一つ。
この二人が戦っている隙をついて、如何にしてこの場から逃げ出そうかという事だけだった。