RPGで行こう






「ツナさん!今回はRPGなワールドでパロディらしいです」
ハルが上機嫌で配役表を持って来た。
「…へ?」
思わず間の抜けた声を上げてしまったのは、ハルの背後に控えている面々が凄まじい眼光を飛ばして来たからに他ならない。
「主要キャラは6人ですね〜。ヒーロー(勇者)、マーチャント(商人)、ウィザード(魔法使い)、プリースト(聖職者)、ハンター(弓手)、モンク(格闘家)…」
「いや、うん。それは良いんだけど」
喋り続けるハルに、片手を伸ばしてストップを掛ける。
「…まさか俺、その6人に入ってる訳じゃないよね?」
恐る恐る尋ねた台詞は、しかしアッサリと肯定されてしまった。
「はひ、入ってますよ?だって今回のツナさんは、一番のメインキャラなんですから」
輝かんばかりの笑顔で、配役表を抱きしめるハル。
そしてその背後に控えている、雲雀恭弥、ベルフェゴール、白蘭、入江正一の4名。
「えーっと…俺、降ろさせて貰うよ。うん。そういう事で、後は頑張って」
回れ右をして部屋から出ようと、すかさずドアノブに手を伸ばす。
しかし扉は開く気配が無い。
「…え?」
嫌な予感に苛まれつつも、慌ててノブを左右に回す。
案の定、扉はビクともしなかった。
「何で開かないのー!?」
両手で思い切りノブを引っ張り、ガチャガチャと激しく捻ってみるも、結果は変わらない。
「それじゃ、早速配役を発表しまーす」
能天気な声が部屋に響く。
「いや、何でそんな落ち着いてんだよ!俺関係ないし!!っていうか、此処から出してー!」
「何慌ててるんですか?ツナさん、ランナウェイは駄目ですよー。ヒーローが居なくちゃRPGは成り立たないじゃないですか」
「うわぁぁ、やっぱりそれかー!!」
絶叫に次ぐ絶叫。
それをしても尚、逃げ出したい心境は変わらない。
否、寧ろ強まったと言っても良いだろう。
英雄なんて、普通は喜ぶ役割だ。
けれど、それはあくまで『普通』の場合の話。
今のこの凶悪なメンバーで、どうして主人公的存在になりたいと思えるだろうか。
「変なツナさんです。それじゃ、次行きますよー。雲雀さんはモンクで、ベルさんはハンター。白蘭さんはプリーストで、入江さんはウィザードです。ハルはマーチャントですね」
扉の前で泣き崩れる俺を無視して、ハルは次々と配役を割り当てていった。

「へー。王子がハンターかー。ま、偶には良いかもね」
「プリーストって割と地味なんだよね。正チャン、そう思わない?」
「なら、変わりますか?僕は別に何でも良いので…」
「………三浦、其処の鬱陶しいの何とかしたら?」

4人4様の台詞を発している最中、その合間を縫って衣装を配っていたハルが雲雀の声に振り返る。
彼が述べた鬱陶しいのとは、間違い無く俺の事だろう。
「ツナさん?そんな所でスリーピングワールドに入っちゃNGですよ?」
ヒョイと屈み込んで此方を覗き込んで来るハル。
その気配に顔を上げると、丁度目の前に膝小僧が見えた。
別に意図した訳では無い。
けれど困った事に、体勢的にどうしても見えるのだ。
膝小僧のみならず、その先に伸びる足の付け根…その傍に輝く純白の……。
「―――!!」
ガバッと身を起こす。
「はひ?」
突如立ち上がった俺に、ハルはキョトンとした表情を浮かべている。
「ツナさん、どうかしたんですか?」
真っ赤になった顔を片手で隠すと、ハルの視線から逃げる様に背を向ける。
右手だけをハルへと差し出して。
「何でもないよっ。それ、やれば良いんだろ…?」
早く衣装を寄越せという催促に、明るい声と共に服や小道具が差し出された。
「はい!ツナさんがその気になってくれて、ハルはハッピーです。それじゃハルはあっちで着替えてきますので…また後でお会いしましょう!」
満面の笑みでハルは全員を見渡し、扉を開けて室外へと出て行く。
「………」
先程まで頑固なまでに開かなかったはずのそれは、ハルをいとも容易くこの部屋から送り出していた。
そして残る5人の男。
「…あ、あの…宜しく」
再び固く閉ざされた扉に、冷や汗を流しながら挨拶をしておく。
しかし友好的な視線は何一つ返っては来なかった。

「…君が何を見たのかは知らないけど…」
壁に背を預けていた雲雀が、冷ややかな視線と共に口を開く。
「早く忘れた方が身の為だと思うよ?」
続けたのは白蘭。
「そーそー。でないと誤って手が滑っちゃうかもしれないしね」
ナイフをチラつかせたベルフェゴール。
「…宜しく」
唯一まともに挨拶をしてくれたのは正一だったが、彼もまた余り機嫌は良さそうでは無い。

俺…この先、どうなるのかな。
というか、生きて帰れるんだろうか…。


綱吉の受難は、今まさに始まったばかり。







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