優しくて愛しい貴方へ






「ハル!」
耳元で叫ぶ声。
それとは別に、体中の血管がドクドクと脈打つ音も、煩いぐらいに内側から聞こえてくる。
「ハル、しっかりしろ!!」
上半身が誰かの腕に支えられて、ふわりと宙に浮く。

この声は…あぁ、ツナさんだ。

「つ、ナ…さ」
喋ろうとすれば、喉元からせり上がって来る鉄の味。
ゴボリと溢れ出し、ボタボタと口端から零れ落ちて行く。
視界も、もう上手く利いてくれない。
まるで水中にいるかの様に、ぶれて輪郭さえもあやふやになってしまう。
「喋るな。…喋らなくて良いから」
ぎゅうと抱きしめられたと思う間もなく、頬に暖かい水滴が落ちてくる。

これは、ツナさんの涙だ。

右手を上げようとすれば、鉛の様に重い反応が返ってくる。
もう長くはないのだと、自分でも解った。
渾身の力を込めて右手を伸ばす。
「泣…か、な……」
声を発する度に、内臓が悲鳴を上げては血を逆流させる。
口から流れ落ちる血の量に比例する様に、頬に当たる水滴の数が増えた。
「喋っちゃ、駄目だ…っ」
声と共に届く嗚咽。
喋りたくても、既に身体が言う事を利かなくなり始めている。
ツナさんを狙い、けれどそれを防いだ私の身体を貫通した凶弾は、何処かへと落ちて転がっているだろう。
あれは証拠になる。
どのファミリーが狙ったものか、少なくとも見当がつけられるぐらいには。
後で山本さんか獄寺さんが、ちゃんと見つけてくれれば良いのだけど。
ツナさん、御免なさい。
貴方をこんなに泣かせるつもりではなかったんですよ。
でも、最期の最後にツナさんを守る事が出来て良かった。
ハルでも、ちゃんとお役に立てました。
今となっては、それがハルの誇りです。
「…、ハル…」
喋れない口の代わりに、とっておきの笑顔を浮かべる。
ツナさんがハルにくれた、人生の中でも最高の笑顔を。




そして、意識は途絶える。




ツナさん。
貴方は何時も、自分には何も出来ないと嘆いていましたね。
どうしようもない出来事ですらも、自分のせいにして自らを責めて。
仲間の為に涙して、そして戦ってくれた。
そんな優しい貴方が、とてもとても好きでした。
何も出来ないなんて、馬鹿な事言わないで下さい。
貴方はあんなにも、沢山の人を救ってくれたじゃないですか。
今まで戦って来た相手ですら、ツナさんに救われた人も数多くいます。
貴方はそれだけの力を持っている、とても凄い人なんですよ。


だからハルは、そんな貴方を好きになれて、とても嬉しかったんです。







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