安らかなる
カチャカチャ、カチャカチャと器具を嵌め込む音が聞こえて来る。
薄暗い室内は、恐らくハルを起こさない様に気遣ってくれたのだろう。
パソコンから漏れる小さな明かりだけを頼りに、男は作業を続けていた。
ぼんやりと見える光景に、ハルは薄っすらと瞼を持ち上げる。
「スパナ、さん…?」
目元を擦りながら声を掛けると、此方に背を向けて床に座り込んでいた男が振り返った。
「ん…あぁ、起こした?」
何に使用するのか全くわからない部品を手に、スパナは笑って立ち上がる。
「はひ。目、悪くなっちゃいますよ」
「良いんだ。慣れてるし」
部品をサイドテーブルの上に静かに起き、スパナはベッドに腰を掛けてハルの頭を優しく撫でる。
「まだ寝てても良いんだよ?」
室内の壁に無造作に引っ掛けられている時計は、夜中の2時を示していた。
蛍光色で塗られた針の先端が、暗い室内でも解る様に時刻を知らせている。
それをチラリと見上げるスパナの袖を、ハルはグイと掴んだ。
「?」
剥き出しの肩が毛布の隙間から覗いている。
つい2時間前まで触れていたその肌に、スパナはそっと毛布を掛け直してやった。
それでもハルの力は緩まない。
「どうした、ハル」
「………す」
毛布に半分隠されたハルの口元が、何かを呟いている。
目はしっかりとスパナに注がれたまま。
「す?」
「…一緒、が…良いです…」
ぎゅうと袖口を握り締めるその姿に、スパナの顔が呆けた様に固まる。
「…そういう顔されると、可愛くて困る」
漸く出た言葉と共に、ハルの指先を優しく袖口から外した。
自分の指先を見て僅かに落ち込むハルに、しかしスパナは着ていた上着を床へと放り出し、ハルの横へと潜り込む。
「はひ…」
「寝ようか」
両手でハルを抱きこみ、スパナはその額に小さく口付けを施す。
「良いんですか?お仕事…」
「ハルのおねだりには敵わないからな」
此方を見上げる目元、そして唇にも触れるだけのキス。
スパナの優しい仕草に、ハルは嬉しそうに胸元へと頭を摺り寄せた。
「…スパナさん」
猫の仔の様に丸くなるハルが、うとうとしながら話しかける。
「大好きです」
寝息の様な囁き声に、スパナは目元を和ませる。
「うん」
それから程無くして聞こえて来る寝息に、再びハルの頭をゆっくりと撫でる。
安心しきった寝顔に、スパナの口元に微笑が浮かんだ。
「お休み、ハル…」
小さな小さな声が、静かな室内に零れる。
「愛してるよ」
腕の中にある温もりをしっかりと抱きしめ、スパナもまた瞼を下ろす。
それから10分後。
二つの寝息が重なり合い、朝を迎えるまで静かに寄り添っていた。