昔は物を思はざりけり








熱が、意識を麻痺させる。
身体も脳も、何処も彼処もが熱くて熱くて――堪らない。
不快指数は上昇して、どんどんどんどん、一人の事しか考えられなくなって行く。
そんな、感覚。
「熱、………」
剥き出しのコンクリート床の上に身体を投げ出すと、ヒヤリとした感触が服越しに伝わって来る。
それで多少は熱が収まるかと思ったものの、実際は、今現在自分の身体が如何に熱いのかを再認識させられただけだった。
喉がカラカラに渇く、この飢餓感には覚えがある。
「……あぁ、アレだ」
片手で前髪を掻き上げると、額がじっとりと汗ばんでいた。
普段は余り意識しない熱は、だからこそ、一度覚えてしまえば後は高ぶって行くのみ。
何かで発散するしか手立ては無いものの、その材料が今のスパナには欠けていた。
「本、は…捨てたっけ」
ジクジクと身体の奥深くで燻る熱に、再度大きく息を吐く。
「DVDは――無いな」
必死に気を紛らわそうと試みるも、結果はどれも惨敗。
全てが彼女の元へと戻ってしまうだけだ。
既に形を顕にし始めている自身に舌打ちし、スパナが上半身をゆっくりと起こしたその時。
「スパナさん、いらっしゃいますか?」
不意に背後から声が掛かる。
微かな機械音と共に開いた扉に胡乱な視線を向けると、今一番会いたく無い人間が其処に立っていた。
「…居るけど、今は来ないで」
声が掠れている。
耳障りなまでに、欲情の色が滲んでいるのが自分でも解った。
「はひ?あの、ちょっとお話が…」
「何」
一歩近付く気配。
あぁ、止めてくれ。
それ以上傍に寄られると、今の自分は何をしてしまうか解らない。
「あの、今までお世話になったお礼をと思いまして…」
「礼…?」
「はい。ハルは明日、此処を出て行く事になりました」
嬉しそうに笑うその顔に、スパナの表情は冷ややかに変わる。
「出て行く…って、正一は承知したの、それ」
「はい。スパナさんには話してなかったんですが、その…ハルは、取引の材料として此処に連れて来られたみたいで…。何の取引なのかとか、ハル自身まだ良く解らないんですけど」
「……ミルフィオーレの人間じゃなかったんだ」
「は、はい…。すみません。騙すつもりは、無かったんです。その、入江さんに口止めされてて…」
もごもごと口篭る少女は、俯きがちになりながらも、更に一歩近付いて来た。
どうにかして謝罪したいという気持ちがあるのだろう。
二人の距離は今やかなり近くなっている。
スパナが最初に放った言葉を、彼女はどうやら覚えていないらしい。

警告は、一度きりだ。

「別に良い」
「あ、あの…それで―――はひっ?」
突然腕を引っ張られ、ハルの視界はグルリと反転を決めて、崩れたバランスと共に下方へと倒れ込む。
スパナは片手でハルの身体を受け止めると、そのまま床へと押し付けた。
「え…スパナ、さん?」
「謝る必要は無い。あんたはもう、仲間じゃないから……だから、ウチも遠慮しない」
低く呟いた声音が、ハルの顔へと陰を落とす。
明らかに傷付いたその表情に、スパナは顔を寄せた。
「――ん、ん…っ」
リップ一つ付いていない、裸の唇へと軽く口付ける。
柔らかな感触に、下肢に溜まったままの熱が温度を上げた。
「……んぅ…」
ハルが顔を背けるだけで、簡単に唇は自由になる。
驚いた顔にスパナは再び顔を近付け、今度は白い首筋へと吸い付いた。
「や、ちょ…スパナさん、何を…っ」
「セックス」
心地の良い肌へ、くっきりとした紅い刻印を残して笑う。
「え?」
「した事ない?」
思いもよらない言葉を投げ掛けられ、ハルは口をぽかんと開けてスパナを見つめる。
余りに無防備なその表情。
頭の奥を満たす熱が、その顔を汚したくて仕方が無いと囁き掛けて来る。
「しようか」
ふっくらと息づいている胸へ片手を這わせると、ピクリとハルの肩が小さく震えた。
「え、え…?スパナさん?」
「………」
「ちょ、待っ…」
無言の相手に怖くなったのか、ハルは両手で目の前にある肩を押し退け様と力を込めた。
しかし、スパナの身体はビクともしない。
そして胸を弄る手の動きも止まる気配が無い。
「ぇ、や…スパ、スパナさん!」
鼻に掛かった叫び声が耳に飛び込んで来た瞬間、スパナは自ら理性を断ち切った。
明確な目的を相手に知らしめる為、その目を覗き込んで薄く笑って見せる。
先程述べたばかりの台詞は本気だと、スパナの目に宿った光は物語っていた。
自分の知らない男の容貌に、ハルの脳裏に警鐘がガンガンと鳴り響く。
目の前の顔を凝視したまま動けずに居る少女に、スパナは胸に這わせていた手でブラウスの前合わせを引き裂いた。
絹が裂ける音と悲鳴は似ているなと、ハルの叫びを聞きながら思う。
露出された白いフリルの付いた下着へ噛み付くと、緊張で硬く立ち上がっている胸の先端が視界に入った。
迷う事無く口に含むと、舌で弄ぶ様にして転がす。
「ぃや、あっ」
両肩を押していたハルの両手が拳の形へと変わったのを見て取り、スパナは素早くその手首を取って動きを制止する。
「スパ…っ、冗談なら止めて下さい!」
涙交じりの泣き声に、熱は更に加速度を増して身体を蝕んで行く。
本気で抵抗するから、此方も加減は出来ない。
彼女の拳は、それなりに痛いと知っているから。
手首を強く押さえ付けると、痛むのか多少動きが鈍くなる。
「…ぃ、……やです。お願…」
ぼろぼろと溢れる涙を舌で舐め取ると、何故か酷く甘く感じられた。
悲鳴ですらこんなにも甘美で、どうしようもなく劣情を煽られる。
優しくするつもりは、最初から無い。
どうせもう居なくなる存在なのだ。
それならば、何も無理して友好関係を押し通す必要も無いだろう。
自分のこの狂おしいばかりの感情を今まで抑えて来たのは、単に同じ組織の人間だと認識していたからに過ぎないのだから。
「煩い。黙らないと、このまま突っ込む」
冷たく言い放てば、明らかに怯えた表情が目に入った。
10代前半とはいえ、性の知識は皆無では無いだろう。
例え経験は無くとも…否、だからこそ余計に恐怖を煽られる筈だ。
「ど、して…こんな…」
しゃくり上げる声を無理矢理に塞ぐと、熱い舌に行き当たる。
トロリとした唾液を絡めれば、表面の擦れる感触にハルの肩が震えた。
こんな状況であっても、性感帯は健在らしい。
身体が意識を裏切るとは良く言ったもので、本人の意思とは裏腹に、彼女の恐怖で凍えた身体も次第に熱を帯びて行く。
「いゃ、…っ」
ハルの下肢を膝で割って入ると、しっとりと吸い付く様な肌が太腿まで顕わになった。
まだ発展途上とは言え、スパナにとっては魅惑的な身体をハルは供えていた。
あぁ、そうだ。
彼女はまだ14歳なのだ。
14歳の、子供なのだ。
そんな子供相手に、一体自分は何をしているのだろう。
しかし、良識的な自問が頭を掠めたのは、ほんの一瞬だけ。
次から次へと噴出す熱の波が、そんな考えは邪魔だとばかりに、片端から浚っていってしまう。
「………」
忙しなく指先を奥へと潜り込ませ、下着の上から割れ目を擦りあげる。
汗なのか、それとも別の何かなのか、其処は僅かな湿り気を帯びていた。
「いや、いや、いや…!」
布が捲れ上がるのも構わず足をバタつかせるハルに、スパナは己の体重を掛けて動きを封じ込める。
細身とは言え、成人男性の体重が一気に圧し掛かり、下敷きになった少女はくぐもった呻き声で苦しそうに顔を歪ませる。
「やだ…ぁ……」
涙を流して哀願する姿は、けれど此方を止める手段には成り得なかった。
寧ろ逆効果で、更に熱を煽られただけだ。
「スパナ、さん……お願い、やめて…」
「無理。あんたが悪い」
懇願は一蹴され、下着の上を擽っていた指先が内側へと侵入する。
「ひ…っ」
ツプ、と湿った秘所へ入り込んだ異物に、ハルの身体は完全に硬直した。
「濡れてる…」
「……ぁ…、ぁ…ゃ、いた…」
浅瀬を一本の指でグルリと掻き混ぜると、内壁が引き攣れて絡まる。
ガチガチに強張った其処は、愛液で濡れてはいても相当の痛みがあるだろう。
「力抜いて…って言っても、出来ないだろうな」
思う様に動かせない指先に焦れ、ズルリと抜き取る。
ヌラリと蛍光灯の光を反射させる濡れた指先を口に含むと、スパナは上半身を屈めて下肢の合間に顔を埋めた。
「ひ…っ!?」
片足を大きく広げさせられ、そのままズルリと下着を抜き取られる。
左太腿に引っ掛かった状態で、ショーツはゴムの勢いに負けてクルリと丸まった。
「あ、ぁ…何、を」
「もう少し濡らさないと、ウチも痛いし」
淡々と綴られるスパナの言葉に、ハルの頭は恐慌を来たす。
「や…っ」
突如として秘所に生暖かい何かが触れ、ビクリと大きく腰が揺れた。
両手でハルの脚を広げたまま、逃がさないように強く押さえ付ける。
そのまま綺麗な薄桃色をした縦筋をゆっくりと舐め上げ、舌先でしっかりと閉じている入り口を無理にこじ開ける。
「…っ、ぁ。ひ、ぁあ、あ…」
丁寧に唾液を含ませながら、徐々に割れ目を解して行く。
時折割れ目上部にある陰核へ刺激を与えてやると、内壁から流れ出た透明な液が、自然と秘所を潤していった。
「あ、ぅ……」
ビクビクと両脚を震わせ、赤く顔を染めるハルの表情に、スパナの忍耐が先に切れる。
手早く下肢のジッパーを下ろし、自身を解放する。
既に天を仰いでいるそれを視界に入れた瞬間、ハルの顔はハッキリと引き攣った。
「ひ…む、無理…ですっ」
「何が」
「そ、なの…入らな……」
「気にしなくて良い。入らなくても、入れるから」
「…っ!」
両目に恐怖を湛え、ハルは背中を捩じらせて逃げの姿勢に入る。
しかし、スパナの片腕がそれを許さない。
強く腰を引き戻され、焼けそうな程の熱源を秘所へと押し付けられる。
「や、…―――っ」
何の躊躇も無く押し込まれた塊に、ハルの半身は跳ねてそのまま動きを止めた。
激痛を越えた痛みに、一瞬目の前が真っ白に染まる。
意識の端で、ブツリと内側で何かが破れる音が聞こえた。
頭の中で光がスパークした感覚に、そのまま気絶への道を転がり落ちていく。
けれどそれすらも許さないとばかりに、圧し掛かった男が腰を引き、再び押し込んだ。
痛みも過ぎれば、気絶出来なくなるのだと、ハルは身を以って知る羽目となる。
「痛、…あ、いや、あ…ぁあっ」
スパナが無理矢理に押し込んだ欲望を前後させると、その度にハルの口から悲鳴が迸る。
力の抜き方すらも解らず、ただただ身体を硬く強張らせて助けを求めている相手を、スパナは力任せに突き上げた。
腰をぶつける度に飛び散るのは、恐らく愛液よりも血液の方が多いだろう。
「い、あ…っ。あぁ、やめて…抜いて下さっ…」
避けた秘所とスパナの内側からの暴力に、ハルは痛みに泣くしか出来なかった。
必死で首を左右に振り、相手が終わりを迎えてくれるその刻を待ち望む。
「…っ」
とんでもなく狭い内壁に、直ぐ様達しそうになるのを堪え、スパナは律動を続けた。
キツイ締め付けは彼自身にも痛みを齎していたが、それ以上にハルと繋がっているという喜びの方が大きく、それが緩和剤となって快楽を与える。
何度も擦り上げた内壁は徐々にスパナ自身のサイズを受け入れ、又痛みを和らげる為に自然と大量の体液を奥から分泌させていた。
「ぅ、あ…っ、あ、あっ」
ヌチュヌチュと耳に届く音は大きくなり、それに合わせてスパナの動きも滑らかになって行く。
「ゃあ、あっ…スパ…助け……」
ハルの両手がスパナの背中へと回される。
自分を苛んでいる人間に助けを求めるというのも妙な話ではあるが、この組織では他に頼る人間を彼女は知らない。
スパナだけが、彼女の敵ではない存在だったのだ。
――尤も、それも今日で終わってしまったけれども。
「……気持ち良い、ハル?」
自分の考えに小さく笑うと、態と顔を近付けてハルを覗き込む。
無理強いの、しかも初回なこの行為に、彼女が快楽など覚えられる筈も無いと承知の上で。
「…ぅ、う…痛い、です…っ。痛い、スパナ…さ、あぁっ」
「ウチは気持ち良いよ。ハルの中、凄く良い」
ガクガクと少女の身体を揺さぶり続け、禊を奥へ奥へと叩き付ける。
最奥を突き上げる度にギリリと締まる入り口が、スパナを頭の芯から震わせていた。
「ぁう、あっ、あ…ゃ、ああ…」
背中にしがみ付いているハルの手が、ギリギリと爪音を立てて強く引っ掻く。
しかし、後に深い傷跡を残すであろうその痛みですら、今の彼には感じられない。
「ハル、ハル……」
「ぃあ、あっ、……ゃああ、ぁ」
スパナは急激にハルの両脚を抱えると、結合部を更に深めて一層強く腰を打ち付ける。
「ひぁあ、あっ」
今までとは比べ物にならない激痛に、ハルの両目が限界まで見開かれた。
「……っ、ふ…」
パタリ、とスパナの額から頬へ掛けて汗が流れる。
それは顎を伝い落ち、そのままハルの唇へと滴った。
「ぁ、あう、あ…やだ、……スパナさっ…それ、だけはっ」
終わりが近いのだと流石のハルでも気付き、その先に待ち受ける飛沫を恐怖して小さく叫ぶ。
「や、やぁ…っ。ス…駄目、ダメ、だめ……中は、やあっ」
制止の声は、ただハルの口から漏れるばかりで、スパナの耳には届かない。
「―――く、…っ」
奥歯を噛み締めて最後の突き上げを送り出した瞬間、限界まで昂ぶったスパナ自身から、白い奔流がハルの内壁へと迸った。
「ぃや、ああ…っ、あ、あ…」
ビュク、ビュクと断続的に繰り出される精液に、ハルは絶望の声をあげて呻く。
「…は、……」
解放した熱と背筋を掛ける電流に、スパナは何度か大きく呼吸を繰り返した。
快楽の残滓を余す事無く全てハルへと注ぎ、最早呆然と天井を見上げるしかない少女を見下ろす。
「ぁ……う、そ…」
瞬き一つする事の無い瞳から、パタパタと涙が溢れ落ちる。
散々嬲った秘所から未だ形の萎えない自身を抜き取ると、内側からトロリと白濁液が零れて床を汚した。







戻る