夜をこめて








少々草臥れた緑の背中に、ハルはそろりと足を忍ばせて近付いて行く。
後5歩程度でその肩に手を置く事が出来るだろう。
作業に熱中している相手の驚く顔を想像し、思わず笑ってしまいそうになる。
片手で口を塞いで笑いの衝動を堪え、足音を決して立てない様に注意して進む。
後3歩。
後2歩。
後1歩…。
口から手を離し、大きく息を吸い込む。

「?」

突如として振り向いた相手に、片手を伸ばした姿勢で、口を開いたままハルは固まった。
脅かす為に叫ぼうとした短い言葉は、行き場を失ってそのまま胃の中へと戻ってしまう。
「…スパナさん、気付いてたんですか」
「何が?」
保護ゴーグルを頭の上へと押し上げながら、スパナは不思議そうな表情で部品をテーブルへと置く。
「ハルが来てた事です」
「あぁ、うん。ずっと後ろにいるのに何も言わないから、どうしたんだろうって思ってた」
「……はひ」
溜息を吐くハルへクッションを出してやりながら、自分は茶を入れる為に簡易キッチンへと向かう。
そんなスパナに恨めし気な視線を送り、ハルは大人しくクッションの上に腰を下ろした。
ボンゴレのアジトに一室を与えられて以来、スパナはこの部屋の住人となっている。
当初は何も無かった室内も、一ヶ月もすれば色々な機材ですっかり埋まってしまった。
仕事部屋を兼ねたスパナのこの私室に、ハルが通う様になってもう半年だ。
飴の包み紙をその辺にポイポイ捨ててしまうせいか、辺り一面塵だらけの惨状にハルが悲鳴を上げて掃除をしなければ、此処はもっと酷い有様になっていただろう。
湯気の立つ湯飲みを2つ、テーブルへ静かに置くスパナの口元に、何時もは見える筈の飴の棒が今日は見えない。
珍しい事もあるものだと、ハルは礼を述べて湯飲みを持ち上げた。
「スパナさん、今日何の日か解りますか?」
向かい側に腰を落ち着けた相手に、唐突に質問をぶつけてみる。
ビックリさせよう大作戦の目論見が失敗したのを誤魔化そうとしたのもあるが、本来の目的は此方の方だ。
「…ん。クリスマス、だっけ」
一瞬間を置いて考えたスパナが、僅かに困った顔で緑茶に口を付ける。
「はい、正解です。それじゃ、約束も覚えてるんですね」
にこにこと嬉しそうな顔に、ますます眉を下げてスパナは床に落としたままの手袋に視線を遣った。
あからさまに逸らされた目に、ハルはその横顔をじっと見つめる。
痛い程の凝視に負けたのは、凡そ1分後。
「…ごめん。無理に、なった」
視線を戻してボソリと呟く姿に、ハルは口を結んだ。
半ば予想していた事とはいえ、楽しみにしていただけにショックは隠せない。
「そうですか…」
「ちょっと急な仕事が入って、これを明日までに造らないといけないんだ。だから今夜は、出掛けられない」
テーブルの隅に置いた先程の部品を指先で撫で、静かに言葉を紡ぐ相手に、ハルは小さく息を吐いた。
仕方が無い。
スパナは立派な職人で、引く手数多な程の技量の持ち主だ。
その分回される仕事も多く、此処数日は余り寝ていないとも聞いていた。
今日は特に、最早癖になっている飴を口に入れる暇も無い程、忙しいのだろう。
クリスマスに一緒に遊ぶという約束を仕事より優先させろとは、この状況下では流石に言えない。
「御免、ハル」
再び謝罪するスパナに、ハルは残念な気持ちを押し殺してテーブルに身を乗り出す。
「良いです。遊びに行くのは何時でも出来ますから。…その代わり、今夜は一緒に居ても良いですか?」
「多分、余り話も出来ないよ?」
「はひ。ハルはスパナさんのお仕事する姿好きなので、見ているだけで良いんです。それだけでもハッピーですし」
「そっか。ハルがそれで良いなら、ウチは別に構わない」
グイグイと近付いて来る顔を眺め、スパナはその頬を優しく撫でる。
「その代わり」
「ん」
僅かに伏せられた瞼が恥ずかし気に震え、戸惑う様にハルは口篭った。
「その代わり、キス…して下さい。クリスマスプレゼントとして」
桜色の唇から零れた願い事に、スパナの目が丸くなる。
「後日でも良いなら、ちゃんとした物を何か贈るけど」
「いえ、ハルはキスが良いです」
「…何時もしてるのに?」
「何時もって言っても、最近はしてません…。それにクリスマスのキスは、また特別なんですよ。今日は聖なる日なんですから」
言葉を重ねる毎に頬を赤く染め、それでも視線を迷う事無く真っ直ぐに向けてくる。
そんな少女の心境は、どうにもスパナには理解出来ない。
イベントというのは女心を奮い立たせる大事な行事だと良く聞くが、そんなものなのだろうか。
「嫌、ですか?」
不安そうな眼差しに緩く首を振り、両手でハルの顔を包み込む。
「嫌じゃないよ」
安心させる様に再度ゆっくりと頬を撫でて、何かを紡ごうとした唇を軽く塞ぐ。
久しぶりに触れる柔らかな感触に、不意に微かな電流がスパナの身体を駆け抜ける。
「ん…」
甘い吐息が直に感じられ、気付けばスパナの両手はハルの腰を抱き寄せていた。
「は、ひ…?」
テーブル越しの抱擁に、危うく湯飲みが引っくり返りそうになる。
ハルが驚いた様に閉じていた目を開くと、更に強く身体を引かれ、自然とテーブルの上に引き上げられる形になってしまう。
「スパ…?ん、…んぅ」
最初は触れ合うだけだった口付けも次第に深く重なり、何時しか貪るとしか言い様が無い程激しいものへと変化して行く。
無事だった湯飲みも今度こそ倒れてしまい、緑茶がテーブルを水浸しにする。
ざらりと喉奥まで舐められる感覚に、ハルは呼吸困難で眩暈を起こしそうになり、慌ててスパナの肩を掴んで顔を引き剥がした。
舌と舌の合間に透明な糸が引き、互いの顎を濡らして落ちる。
乱れた呼吸も整わない内に、スパナはハルの足下へと手を差し込み、そのまま横抱きにしてベッドまで運んだ。
「え、え…?スパナさん……?」
ギシリと軋む音に仰天してハルが顔を上げる。
濡れて妖しく光る少女の唇を親指で拭い、スパナは何処か熱に浮かされた表情でその顔を覗き込む。
「…ハル。ウチもプレゼント貰って良い?」
「え、あ、はい。プレゼントならハルの部屋に用意して――」
「うん、でもウチが欲しいのはハルだから」
「はひ?」
「ウチが欲しいプレゼント、ハルだから」
繰り返される言葉が、重みを増してハルに圧し掛かる。
ドサ、と上半身がベッドに沈む感覚に、しかしハルは呆然とスパナを見上げていた。
衣服の上から胸に這わされる手に気付いて初めて、小さく悲鳴を上げて抵抗する様にその手を止めに掛かる。
「スパ、スパナさん!仕事、まだ残ってるって…!」
「ん。2時間ぐらいなら平気」
「へへへ平気じゃありませんっ。それにそんなご休憩時間みたいな、リアルなタイムは嫌ですー!」
「それじゃ3時間」
「そういう問題でもないです!」
スルリと膝を割って入ってくるスパナの足に、ますますハルの頭は恐慌を来たす。
「じゃあ、どういう問題?ウチとするのは嫌?」
既に何度も身体を重ねている者同士、今更嫌も何も無いのだが、それでも突然の行為に驚くなという方が無理な話だ。
「違…っ。シャワーとか、まだ浴びてないですしっ。その、他にも心の準備とか…」
「ウチは気にしない」
「ハルが気にするんですー!せめてシャワーだけでもっ」
「無理。そんなに待てない」
先程の口付けで理性を飛ばしたのか、余裕無くスパナの手がハルの衣服に掛かる。
太腿を擦り上げて来る足を止めに掛かっていたせいで、前を肌蹴られる行動を阻止出来ず、完全に暴かれてしまった上半身にハルは全身を赤く染めて固まった。
煌々と電灯が明るく部屋を照らし出し、白い素肌がスパナの目の下に晒される。
僅かに朱が混じった肌色が艶かしく、少女の放つ何処か甘ったるい体臭が鼻腔を擽った。
たったそれだけで、恐ろしい程の飢餓感がスパナに襲い掛かって来る。
そういえば、キスもセックスも2ヶ月ぶりだと、ぼんやりと思い出した。
以前抱いた時の感触が鮮明に蘇り、じくじくと下半身が疼いて熱くなって行く。
下着のフロントホックを外すとふっくらとした双丘が現れ、スパナは吸い寄せられる様に先端を口に含んだ。
「ひゃっ」
まるでそれ自体が独立した生き物の様にグネグネと動く舌に刺激され、ハルの身体は快楽の前兆に震える。
「あ、ゃ…っふ」
先端は直ぐに硬度を増して形を成し、確かな感触を舌の表面に伝える。
チュと音を立てて吸い付くと、それだけでスパナの腰を挟んでいるハルの両脚が震える。
触れていない方の先端にも指先を伸ばして触れると、其処は既に固く立ち上がっていた。
「ハル。…ウチ、今日は余り優しく出来ないかも…」
「は、ひ」
ぼうっとした少女の表情に、噛み付く様なキスを施す。
空気を求めて逃げる舌を執拗に追い掛けては絡め取り、互いの唾液が混ざり合って溢れる程、深い深い口付けを続ける。
熱が高まり過ぎて、鈍痛すら訴え始めている自身を宥める事すら、今のスパナには到底出来ない。
スパナが割り入っているせいで大きく開かれた足を辿り、太腿の内側、その奥まで指先を潜らせる。
ツルリと滑らかなシルクの感触に到達すると、指の腹で軽く擦り下ろす。
薄手の絹はかなりの湿り気を帯びており、布越しでもハルが感じているのがハッキリと解った。
深いキスでハルの気を逸らせている内に、薄い桃色のショーツを手早く脱がせる。
「ちょ、…スパナさん、待って下さ…っ」
トロリとした表情で呆けていたハルも、流石にこの時ばかりは我に返って暴れ様と身を捩る。
しかし時既に遅く、下肢は捲れたスカート一枚のみとなってしまっており、あられもない格好でハルはスパナを見上げるしか出来ない。
指先に丸まったショーツを引っ掛けたまま、スパナは片手で自分の下肢を簡単に寛げた。
「待たない」
ワンテンポ遅れた返事に、パサリとシーツに落ちるショーツの音が合わさる。
しとどに濡れた秘所に酷く熱い何かが触れ、入り口を押し広げて内へと侵入しようとするそれに、抗議する様にスパナの胸に手を当てて退けようと試みる。
無駄だと解ってはいたが、案の定スパナは強引に腰を進めて来た。
「や、まだ…無理っ…」
全く解して無い箇所への挿入に怯え、ハルは首を激しく振って拒否の意を示す。
「大丈夫。ハルの此処、もう凄く濡れてるから。これなら直ぐに入る」
宥める為かハルの頭を優しく撫で、その感触に力が抜けた頃を見計らい、スパナは先端を押し込む。
「ひ…ぁっ」
ズズと入り口が音を立ててスパナを飲み込み、大きく広げられる圧迫感にハルの顔が苦痛に歪んだ。
「痛い?」
「…苦し、です…」
何度かスパナを受け入れた事のある其処は裂ける事こそ無かったが、それでも無理矢理な挿入は苦痛を伴ってしまう。
そもそもまだ十代後半のハルにとって、この行為は喜びよりもどちらかと言えば恐怖の方が大きかった。
学生という身分での、この行為に対する背徳感も理由のひとつだが、それ以上にスパナの与える気が触れそうになる程の快楽に堕ちるのが怖くて堪らないのだ。
普段は誰より優しく接してくれるスパナは、しかしハルを抱く時には容赦が無い。
「ごめん。直ぐに気持ち良くなるから、少しだけ我慢して」
額に軽い口付けを落とし、ハルの片足を更に大きく開かせる。
「ぃ、あ、あ…」
徐々に深く侵入してくるスパナが、その後に襲い来るであろう快楽が恐ろしく、ハルは目の前の身体に強く抱き付く。
「ハル」
全て沈めたスパナが大きく一呼吸をし、今度は軽いキスを震える唇に与える。
「動くよ」
どうせ嫌だと言っても、この青年は聞いてはくれないだろう。
それならば、もう後は受け入れるしかない。
背中にしっかりと爪を立てて身構えるハルに小さく笑い、スパナはいきなり強く内壁を擦り上げた。
「ひぅ、あ…っ!」
世界が反転するのではないかという衝撃が、ハルの下肢に直接ぶつかる。
まだ完全に馴染む前の律動に、熱く苦しい塊がハルを責め苛んだ。
鋭利な角度を付けて押し込まれる度に、厭らしく濡れた下肢が揺れ動く。
「あ、んっ。…あ、あ、ぁ…」
苦しいだけの繋がりは、4、5度往復する頃にはもう堪らなく切ない欲望へと摩り替わっていた。
「あ、あっ…ぁ、やぁあ」
水音に反応して、ハルの秘所がスパナを締め付ける。
内壁がキュと圧迫感を加えて来る度に、スパナは軽く息を止めて波をやり過ごした。
けれどそれも、次第に感覚が短くなって来る。
ハルの絶頂が近いせいだろう。
早く開放して欲しいと咽び鳴く身体を抱き締め、それでもスパナは決定打を与えてはやらない。
悶える少女の肉体をもっと貪りたいと、熱く歪む思考が切望しているせいだ。
まだまだ、終わらせたくはない。
この快楽を共有する時間を、もっともっと、長く続かせていたい。
それこそこの命が尽きる、その瞬間まで。
普段の自分が見れば何て馬鹿げた考えだと思うだろう願いを、それでも今は捨てる事は出来ない。
「ひぁあ、あっ…苦し…で、すっ。も、やぁ。あ…っ」
陰茎に纏わりつく、ぬめる肉の感触が、どうしようもなく欲情を掻き立てて止まない。
「ハル、凄くヤらしい顔をしてる」
クスリと漏らした笑みがハルの羞恥心を煽り、涙となって目の端から零れ落ちる。
「そ、な…誰のせい…で、す…きゃぁうっ」
一際奥を突き上げ、それ以上抗議の声を上げさせないように攻めると、ぶるるっと背中を震わせて少女は喘いだ。
「ウチのせい…?」
「当たり、前…!はひ、ぃ…ぁ、あ、…っ。狂っちゃ、います……!スパナさん、も、…お願いっ」
「駄目。まだ、駄目」
「ひぅぅ…」
ハッ、ハッ、とまるで犬の様に呼気が荒く吐き出される。
堪らない程の快感だ。
恋焦がれた身体を抱くというよりは、寧ろ犯していると形容した方が相応しい。
肉欲を満たす為だけの行為に取られてしまいかねない、今のスパナの行為にこの少女はどう思っているだろうか。
「スパ、ナ…ぁんっ」
切なくて仕方が無いらしく、ハルは何度もいやいやをする様に首を振っている。
肉を擦り上げる度に、ガクガクと、抱え上げたままの両足は痙攣していた。
「あ、あふ、…っんぁあ!ぃや、も…」
いよいよ追い詰められたハルが自然と達しそうになるのを察し、スパナは腰の動きを止めた。
「ん……ぇ、…?」
突然止められてしまった絶頂に、ハルは信じられないものを見るように相手を見つめる。
「ん」
「ど、して…止めるんで、すか」
縋る様な瞳に笑いを返し、質問には答えずにおく。
代わりに繋がっている箇所に視線を移すと、人差し指で入り口をグルリと辿った。
「…ぁ」
ビクリと反応する身体と声に、ハルは新たな涙を頬に伝わせる。
「ハルの此処、ウチのを最奥まで呑み込んで離さないよ。…中もグチョグチョで、凄く気持ち良い」
「はひっ…な、な…」
「ホラ、また締め付けた。そんなにウチのコレが良いんだ?」
緩く腰を動かすと、それだけで艶っぽい溜息がハルの唇から漏れ出る。
此処で違うと言えればどんなに良い事か。
けれど、そんな言葉を発したが最後、彼はますます終わる時間を長引かせてしまうだろう。
普段はストイックに見える分、その実、情欲は誰よりも深い事をハルは知っていた。
一度始めるとなかなか止まってくれない、そんな面をスパナは持ち合わせているのだ。
自分が欲しい言葉を全てハルの口から引き出すまで決して許さない、意外な一面を。
「ウチが欲しい?ハル」
「………は、ぃ」
「聞こえない」
「…っ、欲しい…です。スパナ、さ…っ」
腰を引く動きが、ズルリと内壁へとダイレクトに伝わる。
ゾッとする程の歓喜が、ハルの視界を歪ませて行く。
沸騰した脳内に響くスパナの声だけが、今のハルに聞こえる全ての音。
「もっと言って」
「欲しいで…すっ、あ、ぁあ」
「もっと」
再開された律動が、覆い被さられる熱が、頬に掛かる金の髪が、吐息が。
それら全てが、ハルから正常な思考を攫って行ってしまう。
「スパナさん、奥っ…、いっぱい…突いて、下さ…いっ。強く、一杯…あぁあっ」
こんなのは自分では無い。
こんな、浅ましく善がって、強請って、信じられない言葉を吐く、こんなのは。
でも、それでも良いと思ってしまう程、スパナが与えてくれる快楽に、ハルは全身が溶けて行く感覚を覚えていた。
「気持ち、良…っ、あ、あんっ…。ぁ、ゃあ、あ、良い、…で、すっ」
意識が飛びそうになる恐怖さえ、最早熱を煽る一端にしか成り得ない。
窓から見える夜景が、突如としてハルの目に飛び込んで来た。
ふわり、ふわりと白い何かが夜空を飾っている。
様々な家の窓に飾り付けられた、煌びやかなリースが放つ明かりに負けない程、鮮烈な白い輝き。
最初は雪虫かと思われたそれは、しかし直ぐに違うと解った。
「ゆ、き…っ」
ハルが小さく叫んだ言葉に、スパナも又腰を止めないままに窓の方へ首を巡らせる。
「あぁ。ハルが望んだ、…ホワイトクリスマス、だな」
「あ、あぅ…っ、あ、あ、あ…っ」
高まる鼓動と熱の波に、ハルは目を閉じてスパナの背に回した両手に力を込める。
「好き、好き…ですっ…。スパナさん、好き…ぃ、あっ」
「ウチも。ハルが好きだよ…誰より、一番」
「ん、ぁ…っあ、あ、っぁあ、いや、…ぁ」
ギリリと爪が深くスパナの背中に食い込むも、青年は全く気にした様子も無く、ハルを追い立てる事に集中していた。
衣服越しとはいえ相当傷む筈の傷に、もしかしたら気付いていないのかもしれない。
それ程にハルを愛しそうに見つめ、腰を動かすスピードを上げて行く。
「は、ぅう…っ。だ、め…イっちゃ……ぅ…っ」
「良いよ、イって。ウチも…」
遠慮なく奥をガンガン突き上げられ、ハルの意識は真っ白に塗り潰される。
ドクドクと脈打つスパナの心音と、熱く交わった下肢だけしか認識出来ない。
「ぃやあ、あっ…イく、い、ぁあ…あぁあ―――!!」
「く、……っ」
目の前で光が弾け飛ぶ幻覚が見えた瞬間、スパナ自身の先端から熱い白濁液が大量に吐き出される。
ドクドクと、心音と同じ速さで放たれたそれに、呼吸すら侭ならない。
全身を駆け抜けた電流に、幾度も腰を前後させて最後まで快楽を逃さずに捕らえ置く。
ハルの内壁へ全てを出し切っても尚、スパナはハルの身体を抱きしめたまま離さなかった。
「……ぁ、ぅ…」
腕の中で意識を失い、くたりと目を閉じているハルをじっと見つめ、上下する肩に顔を寄せる。
「…もう一回したいって言ったら、ハル怒るかな…」
額を押し付けて小さく呟き、ハルの上半身をそっとシーツの上に下ろす。
ハルが目覚める気配は無く、スパナはゆっくりと半身を起こして自身を引き抜く。
最初の頃は押し出そうと抵抗ばかりしていた秘所は、抜き取る際、まるで別れを惜しむかの様に一度スパナを締め付け、ヌルリと滴る体液と共に解放した。
「…ハル」
深い眠りに落ちた少女の耳元に口を寄せ、小さな声で短く呟く。

「メリークリスマス」

その声が届いたのか、ハルの顔が幸せそうに微笑んだ。







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